前回のブログでご紹介したワイン研究の結果を紹介します。
【成分分析結果】
今回の実験によるワイン中の成分の変化は以下の通りであった。
・酢酸濃度は小売店群は保管により増加した(0.08→0.21g/L)
・遊離亜硫酸の濃度は全ての条件で減少したが、小売店群での減少幅が特に大きかった(小売店67.2%、セラー42.3%)。全てのワインは1年後に亜硫酸濃度が10mg / L以下になっていた。つまりすべての条件で白ワインに亜硫酸による保護が期待できない状態になっていたと考えられる。
・色の変化にはカテキン類が重要だが、セラー、小売店群共にフラバン-3-オールの大幅な減少が観察された。コルクでは高品質のSUPで他のコルクより成分量が高く保たれた。
・小売店群は光からの暴露により酒石酸が減少していた。
・レスベラトロールをはじめとするスチルベン構造をもった化合物は、セラー群はほとんど変化しなかった。小売店群はスチルベンの総量が大幅に減少した。
・主要な揮発性物質であるメタノール、ジアセチル、酪酸エチル、イソブタノール、酢酸イソアミル、イソアミルアルコール、およびアセトインなどの含有量はすべての条件下で有意に減少した。これらの減少は、小売店群の方が高く、特に酢酸エチルの減少が顕著だった。
・バラ、モモなどの香りを発するフェネチルアルコールのひとつである酢酸2-フェニルエチルは小売店群で減少した。
・モノテルペンアルコールでは、瓶詰め前のワインよりもリナロールとシトロネロールの濃度が両群で低く、α-テルピネオールの濃度が高くなった。
・β-ダマセノンと3-オキソ-α-イオノールは大幅に減少したが、小売店群は、ビチスピランとTDN(トリメチルジヒドロナフタレン)が高濃度で現れた。TDNは通常、長期間保存されたワインで形成されるとの報告がある。今回小売店群でTDNとビチスピランの生成が促進された。
・フルフラール、フラニルエタノン、エチル-2-フロエート、5-エトキシメチルフルフラール、フラネオール、5-ヒドロキシメチルフルフラールなど、小売店群でフラン誘導体の有意な増加が観察された。ちなみにフルフラールはアスコルビン酸(ビタミンC)の酸化によって形成される。
・γ-ノナラクトンとγ-デカラトンの含有量は、セラー群に比べて小売店群のワインで高かった。
【官能評価結果】
審査員による官能評価の結果は以下の通りであった。
・瓶詰め前のヴェルデホ品種のワインは、フレッシュな印象があり、ハーブ、柑橘類、フルーティーな香りの高さが評価された。セラー群は、瓶詰め前の官能特性を保持していた。しかし低品質の天然コルクで密封されたワインではわずかに官能特性が低かった。
・エチルエステル、酢酸塩、リナロールおよびシトロネロールとしてのモノテルペノール、およびβ-ダマセノンおよび3-オキソ-α-イオノールとしてのC13-ノリソプレノイドの減少は、ヴェルデホの香りの官能評価を低下させた可能性がある。
・小売店群のワインの評価で、瓶詰め前には無い「熟した果実」、「灯油」という評価が追加された。品質の劣る天然コルク(THR)ではより高く、嗅覚の閾値を超える濃度が生じていた。
審査員はワインの余韻について、セラー群のワインは瓶詰め前のワインと同様のスコアを付けた。小売店群のワインは、余韻の質の評価が低かった。
様々な種類のコルク栓については、高品質の天然コルク(SUP)で密封したワインと微粒コルク(MGR)で密封したワインの間に違いは見られなかったが、品質の劣る天然コルク(THR)で密封したワインは、両群で最低のスコアだった。
【私見】
白ワインの保管条件よる変化について興味深い研究でした。特に小売店で一般的にみられる25℃という温度、光の影響がワインの成分に大きな変化を生じさせていることがわかりました。ワインを特徴づける香り成分の減少(酢酸エチル、リナロール、シトロネロール、β-ダマセノン)、更に酢酸やフルフラールなど劣化や熟成に起因する成分量の増加といった変化がわずか一年という短期間で生じることは驚きです。遊離亜硫酸の減少も品質には悪影響でしょう。保管環境が白ワインに与えるインパクトについて考えさせられる研究でした。
関連過去ブログ
図1. 総亜流酸量、遊離亜硫酸量の白ワイン中での濃度(mg / L)を小売店群(Light)、セラー群(Darkness)、更に高品質の天然コルク(SUP)、 低品質の天然コルク(THR)、微粒コルク(MGR)で比較した。すべての群で有意差(α= 0.05)をもって総亜流酸量、遊離亜硫酸量が減少した(Student-Newman-Keuls検定)。
Reference: Evaluation of the Storage Conditions and Type of Cork Stopper on the Quality of Bottled White Wines
M. C. Díaz-Maroto, M. López Viñas, L. Marchante, M. E. Alañón, I. J. Díaz-Maroto, M. S. Pérez-Coello
Molecules 2021, 26(1), 232
今回の研究を行ったカスティーリャ・ラ・マンチャ大学があるトレドの街並み。目の前に流れる川はテージョ川。伝統産地は川のそばが多い。
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