ワインの香りを化合物から整理する② ~アントラニル酸メチル、フラネオール、3-メルカプトプロピオン酸エチル(フォクシー・フレーバーについて)~

フォクシー・フレーバー(狐臭)を知っていますか?コンコードやナイアガラなど、アメリカ系ブドウ品種(ヴィティス・ラブルスカ系の交配品種)に存在すると言われている香りで、グレープジュースのような甘い特徴的な香りが存在します。日本人にはグレープジュースに馴染みがあるので違和感はないようですが、ヨーロッパの人々には馴染みが薄く受け入れがたい香りと言われています。ではフォクシーフレーバーの語源は何でしょうか?たまにキツネの香りだと説明される方がいらっしゃいますが、どうやらそうではないようです。

アメリカではラブルスカ系のブドウのことを”fox grape”と呼んでいたことから、その香りを"foxy flavor"と呼ぶようになったことが語源となります。では何故fox grapeなのでしょうか?これにはいくつか語源があるそうです。Foxという言葉はかつては「野生的な」という使い方がありこのブドウをそのように表現したから。ラブラスカの葉の形がキツネの手の平のようだから。ラブラスカの葉の裏側が繊毛がキツネ色であったから。キツネが好んで食べるからなどなど(ブログ:「kanitonekoの科学的小ネタ」を参考にしました)。このように語源ははっきりしないようですが、ヨーロッパの人々はこの香りがあるラブルスカをヴィティス・ヴィニフェラと区別していたことは間違えないようです。

ではどのような化合物がこのフォクシー・フレーバーの原因になるのでしょうか?以下にまとめます。

アントラニル酸メチル:窒素含有の化合物です。ブドウだけでなくジャスミンにも含まれます。安全な香料の原料として工業生産されてますが、50%以上含有する場合は向精神薬原料として扱われます。鳥類忌避剤としての研究も行われているそうです。橙花(ダイダイの花)の甘い香気を持っており、この化合物は非常に強い香りを持ちます。希釈するとブドウに感じる香りが感じられ、濃い場合はこの橙花やブドウの香気に加え、ヒメコウジ(ウインターグリーン)のアクセントが感じられるようになるそうです。

フラネオール:イチゴなどの香りとして食品用香料や香水原料として用いられています。イチゴジャムのような甘い香りがすることが特徴です。フラネオールはストロベリーフラノンの別名を持ち、天然にはやはりイチゴに含まれており、またパイナップルやソバ、トマトの香り成分としても重要です。ワインではマスカットベリーAに多く含まれることでも有名であり、メルシャンではこの香りを増加させる醸造技術の研究が進んでいます。

3-メルカプトプロピオン酸エチル:芳香族カルボン酸エステルの一つです。パイナップルメルカプタンと呼ばれ、パイナップルフレーバーの調合には欠かせない香料として用いられています。

次回はブドウに含まれる前駆体から生じる香りについて紹介します。

(参考)ブドウに惹かれるキツネの絵。この構図の絵はGoogle検索で多数ヒットしたが、キツネがブドウを加えているような画像は一枚もなかった。キツネがラブルスカ好きだという話はやはり空想の話??

ワイン・ブログ 情熱とサイエンスのあいだ

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