2021年12月3日(金曜)~4日(土曜)に昨年に引き続き今年もオンラインでの開催となりました。大学、研究所の研究者、行政機関の担当者、ワイナリーの醸造担当者などとお会いできる貴重な機会でしたので、今年も大変残念でしたが、研究発表をYou Tubeで視聴でき、今年も学びの多い機会となりました。
では例年通り、私の視点で気になった発表についてサマリーを残しておきたいと思います。
マスカット·ベーリーA香味成分に対して陰干しブドウ製法が及ぼす影響
○佐々木佳菜子1·菊池晴美1·高瀬秀樹2·安蔵光弘2·片山貴仁1
(1キリンホールディングス(株) 飲料未来研究所·2メルシャン(株) シャトー·メルシャン)
マスカット・ベーリーAの果実、ワインの香味を増強するために「陰干しブドウ製法」が有効か検討を行った。
結果
16℃暗所条件で42日間乾燥させたマスカット・ベーリーAによるワインの結果は以下の通り。
・処理前と比較して平均一粒重量が19%減少、BRIXは16%増加、果実内成分の濃縮が起こった。
・リン酸、クエン酸は増加、酒石酸、リンゴ酸に変化はなかった。
・イチゴ用の香りをもたらすフラネオールの前駆体HDMF配糖体の著しい増加(400%以上)が起きた。
・官能評価では非陰干し群との比較により、「果実様の香気」「濃縮感のある味わい」の評価が有意に高かった。
(私見)マスカット・ベーリーAの新たな可能性が広がる研究発表でした。陰干しによってワイン中のインパクト化合物(フラネオール)の生成が促進される点が大変興味深く、製品への応用が期待されます。
Juice Stabulation法がブドウ果汁中の香味成分へ及ぼす影響
○桂島沙也加1·佐々木佳菜子1·菊池晴美1·出縄敦子1·高瀬秀樹2·岩谷拓郎2·勝野泰朗2·安蔵光弘2·蒲生 徹1·片山貴仁1
(1キリンホールディングス(株) 飲料未来研究所·2メルシャン(株) シャトー·メルシャン)
果汁調整手法のひとつであるJuice Stabulation法は果汁を果汁由来の滓と接触させたまま一定期間管理する手法であり、ワイン中のチオール類(3SH)の増強効果が報告されている。なお本手法はフランスのガスコーニュ地方で開発されたプロヴァンス地方のロゼワインで活用されている。今回の研究では日本で収穫されたブドウを用いてその効果について検証を行った。
結果
・シャルドネ、プティマンサン、メルロー(ロゼ)で7日間1-3℃にてJuice Stabulation法を実施した。対照区と比較してチオール濃度は1.3倍、2.2倍、2.5倍と大幅に濃度が上昇した。
(私見)低温下での滓との接触によりチオール化合物の濃度が上昇する興味深い研究です。本発表の中でも演者によりコメントがありましたが、チオール化合物の濃度上昇と品質との明確な関連性はないと思われます。その一方で特徴的な香りによってワインの個性に付加価値をもたらす可能性はあります。
塩尻地区産メルローワインにおけるオーク樽熟成期間のバトナージュの影響
○森田亮一1·勝野泰朗1·高瀬秀樹1·清道大輝2·出縄敦子2·安蔵光弘1·片山貴仁2
(1メルシャン(株) シャトー·メルシャン· 2キリンホールディングス(株) 飲料未来研究所)
オーク樽内で滓からの香味成分の抽出させるために樽内で滓を攪拌し、再懸濁させる工程をバトナージュと呼ぶ。バトナージュの効果は酵母のオートリシスによって窒素化合物、多糖類、脂質がワイン中に溶け出し厚みと香味を与える手法である。シュール・リーなど白ワインで主に用いられているこの工程を赤ワインで行うことで品質向上に寄与するか、その効果を検証した。
結果
2019年塩尻地区のメルロー種でマロラクティック発酵終了後2週間に一度バトナージュ冶具を用いて攪拌を行った。バトナージュを行わなかったコントロール群と比較して、アミノ酸量は変わらず、タンニン、アントシアニンはバトナージュ群で多い傾向があるものの有意差はなかった。一方味わいの官能評価ではバトナージュ群は「タンニンの滑らかさ」でコントロール群と比較して有意に高い評価となった。
(私見)赤ワインの樽熟成中のバトナージュはあまり用いられていないことを初めて知り、その点に驚きがありました。バトナージュは回数が抽出量に関係しているように思われますので、素人考えですが1週間に一度行うとタンニン、アントシアニンの抽出量、味わいへの影響度が更に増すのではないかと思いました。品質向上に寄与する方法が確立すると良いですね。
醸し発酵によるオレンジワインにおける原料品種の影響
○小松正和·佐藤憲亮·恩田 匠 (山梨県産業技術センター)
赤、白、ロゼに並ぶ第4のカテゴリーとして注目されているのがオレンジワインである。今回7種類(甲州、デラウェア、シャルドネ、ソーヴィニヨンブラン、セミヨン、ケルナー、シェンブルガー)の山梨県産白ブドウ原料を用いて造られた白ワインとオレンジワインの成分比較を行った。
結果
白ワインと比較して比重、エキス、pH、有機酸(クエン酸、リンゴ酸、コハク酸)、無機質(カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン)、総フェノールは高く、アルコール濃度は低かった。
甲州やデラウェアなど淡紫色の果皮を持つ品種では赤橙色のワインとなり、フェノール含量が高いため、酒質に合わせた制御が重要であった。
(私見)
オレンジワインは味わいに厚みがありワインの味わいの幅を広げています。今回の研究から今後はどの品種がよりオレンジワイン製法に適しているか見極めていくことが必要だと思いました。また今後は今回のような成分の差がどのように味わいに影響するのか、官能評価との関係性がわかると良いと思います。一般的にオレンジワインは旨味が増しているものが多いように感じますので、アミノ酸の成分量についてもわかると有益だと感じました。
シャルドネの果汁品質予測
○根本 学1·池永充伸2·平間琢也2·曾根輝雄3·大野 浩4·井上絵梨5·岸本宗和5·奥田 徹5·渡辺晃樹6·太田佳宏6·高橋祐樹7·市川悦子8·桐崎 力8·平松和也9·三輪由佳9·下野雄太9·三浦季子9·小山和哉10·後藤奈美10
(1農研機構北海道農業研究センター·2(地独)北海道立総合研究機構·中央農業試験場·3北海道大学大学院農学研究院·4岩手県農業研究センター·5山梨大学ワイン科学研究センター·6山梨県果樹試験場·7長野県工業技術総合センター·8長野県果樹試験場·9(地独)大阪府立環境農林水産総合研究所·10 (独)酒類総合研究所)
気象データとブドウの酸度、糖度の関連性を分析するため、2017年-2020年の国内の各産地のブドウ果実の生育データを用いて酸度と糖度に影響する気象データとの関係性について検証を行った。
結果
酸度の累積関数の近似曲線により以下となった。
総酸含有量=127.59×有効積算気温-0.512
総酸度が13g/L、10g/L、7g/Lの場合、ベレーゾンからの有効積算気温は約200℃・日、340℃・日、680℃・日に相当する。ベレーゾン以降の期間と共に酸の含有量は下がる。
BRIX糖度の変化は重回帰分析により以下となる。
BRIX変化量=4.6986-0.06A-0.12B+0.018C
A:ベレーゾンからの経過日数(days)、Bは平均気温(℃)、Cは積算日射量である。日射量が多く気温が低い場合大きくなるが、ベレーゾンから日が経過するほど糖分の増加量は抑えられることが計算式からわかる。
(私見)計算式として見ることにより、糖度、酸度にどのような因子がどの程度影響しているのかよくわかりました。特に糖度においては日射量がプラス因子、ベレーゾンからの経過日数がマイナス因子であることに学びがありました。
以上です。また来年の開催が楽しみです。今後も日本のワイン研究を応援しています!
〈参考〉
日本ブドウ・ワイン学会(ASEV JAPAN)2020 オンライン参加報告
日本ブドウ・ワイン学会(ASEV JAPAN)2019 山梨大会参加報告
日本ブドウ・ワイン学会(ASEV JAPAN)2018 京都大会参加報告
最初に紹介した「マスカット·ベーリーA香味成分に対して陰干しブドウ製法が及ぼす影響」で造られたマスカットベーリーAが限定で販売中です!上記3本で16,000円(税込)で安くはありませんが、私はどうしても飲んでみたいので購入しました!
シャトー勝沼ワイナリーでは6,000円で購入できるそうですので、ワイナリーに訪問できる方は直接購入されると良いかもしれません!
↓「玉諸マスカット・ベーリーA 陰干しブドウ仕込み 2018」、 勝沼ワイナリー発売 および オンラインショップにてセット販売開始のご案内
https://club.chateaumercian.com/article/fun/wineryreport/936/
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