日本ブドウ・ワイン学会(ASEV JAPAN)2018 京都大会に参加しました。
日本ブドウ・ワイン学会は、アメリカ合衆国デイビス市に本部のあるAmerican Society for Enology and Viticulture(ASEV、アメリカブドウ・ワイン学会)の日本支部として1984年に設立されました。活動の目的は、ブドウ及びワインに関する研究を奨励し,活気づけ,後援すること。日本におけるブドウ及びワインに関する学術研究発表、セミナー及び学会誌発行等を積極的に推進すること。ブドウ栽培学及びワイン醸造学の教育を促進させ、また情報の収集及び共有を図ることと定義しています。
今回イチ愛好家として参加しました。会期は2018年 11月17日(土)-18日(日)、会場は京都大学吉田キャンパスの農学部にて行われました。参加者は200名程度だったそうです。大学、研究所の研究者、行政機関の担当者、ワイナリーの醸造担当者が参加者の大半だったように思います。二日間の日程ですが活発な議論が行われて日本のブドウ・ワイン研究の最先端、熱気を感じました。さて、今回特に印象的だった発表を中心にご紹介します。
早期収穫果を用いたスパークリングワイン製造 恩田匠 山梨県産業技術センター
日本ワイン競争力強化コンソーシアムの一環の研究。スパークリングワインとスティルワインを作り分け、生産量を向上させることを目的に、早期収穫果と収穫適期でのスパークリングワイン製造の比較を行った。山梨県甲州市産の甲州と長野県北杜市産シャルドネ の比較を行った。製法は瓶内二次発酵方式。
結果として早期収穫果と収穫適期において、官能評価において差は見出せなかった。非常に高い酸度、低いpHで安定したスパークリングワイン製成を行うことができた。
(私見)効率的な生産が難しい日本においてブドウを効率にワインにしていく取り組み。様々な地域での実証にも期待したい。
ワイン用の推奨系統として指定されたブドウ甲州3系統の栽培特性 渡辺晃樹 山梨果樹試
同様に日本ワイン競争力強化コンソーシアムの一環の研究。山梨県のワイン用ブドウ生産の49%は甲州であるが、栽培面積、醸造仕向け量は減少傾向である。様々な系統が存在する甲州において、優良な系統を選抜してほしいという生産者の声があり、山梨県果樹園試で選抜を行った。山梨県ワイン酒造組合から優良8系統、さらに選抜試験を行ない3系統に絞られ、KW01、KW02、KW05の3系統が推奨品種として指定された。
この3系統に対して棚仕立て、短梢剪定H字整枝で生育した。KW01、KW02は3MH前駆物質の含有量が多く柑橘系の香気成分が特徴的だった。KW05は総ポリフェノール含有量が多かった。以上のことからKW01は樹の生育や果実品質は平均的だが柑橘系の香り、生き生きとしたフレッシュな味わいが特徴的なタイプ、KW02は収量が多く樹の生育が旺盛な高収量タイプ、KW05は糖度が高く熟期が早く、力強く凝縮感のあるタイプと分類できた。今後はJAを通して農家に苗木を配布する予定。
(私見)様々なクローンによる甲州ワインの製造が楽しみだ。ワインにする際はどのクローンを用いたか公開して頂きたい。
白ワイン用ブドウ新品種 コリーヌヴェルト 雨宮秀仁 山梨果樹試
高温・多湿な日本の環境でも適しており、冷涼な地域でも成熟する白ワイン用早生品種の開発が開発された。シャルドネにケルナーを交雑したコリーヌヴェルト(Colline Verte)である。コリーヌ(丘)、ヴェルト(緑)から「ブドウ畑が広がる緑の丘」をイメージした品種名である。
試験栽培の収穫時期は8月21日、22日であったが、シャルドネより10日程度早く収穫できた。ケルナーに似た香り、テルペン香、甘い香りが確認できた。ワインにおけるアルコール分、エキス分はシャルドネ、甲斐ブランと同程度であった。この品種の長所は秋の台風、長雨を避けることができることがある。
(私見)日本の異常気象下でもブドウ栽培を行うことができるよう様々なオプションが増えることは歓迎できる。どんな味わいか今から楽しみだ。
甲州ワインの長期熟成における揮発性フェノール化合物の濃度変化と醸造条件の影響 小松正和 山梨県産業技術センター
甲州は淡紫色の果皮をもつなど白ワイン用原料の中ではフェノール化合物を多く含む品種であり、長期熟成によってフェノールによる品質変化が起こることがある。近年揮発性フェノール化合物(4VP, 4VG)が甲州ワインの品質に影響を与えることが報告されている。なお、揮発性フェノールは薬品臭(4VP)、ほこり、煙臭(4VG)と言われている。そこで甲州のオフフレーバーと評されるがどの程度の影響があるのか、2010年産の甲州ワインと2018年の同ワインで比較を行った。
フェノール性異臭(Phenolic Off-Flavor,POF)を生成しない培養酵母は多数存在しており、その酵母を用いた。すると瓶詰直後は4VG、4VP共にほぼ生成されなかった。しかし、長期熟成を行った2010年ワインでは2010年実験当時において総フェノール化合物の含有量が多いものにおいて4VG、4VPが多く産生されていた。一方POF生成を阻害しない(フェノールを生成する)酵母を用いたワインの方が現実験時に4VG、4VPの含有量が少なかった。
(私見)大変興味深い結果で、フェノール含有量が高ければフェノレと呼ばれる揮発性フェノール4VG、4VPがいずれ産生されてしまう可能性があると考えることができる。つまりやはり飲み頃に飲み、長期熟成によるワインの変質、変性のはリスクは常に伴うということだ。
(学会参加に関して)
日本ブドウ・ワイン学会は一般の方に関して「ブドウまたはワイン産業に関係した技術者あるいは研究者、並びにこれらに関心が高い者。」と規定して門戸を開いています。学会会員の入会に関しては以下のページに定めています。年会費4,000円です。
http://www.asevjpn.wine.yamanashi.ac.jp/index.html
一方、大会への参加についてですが、研究を行っていない愛好家は、「研究の議論の妨げはしない、あくまで聴講することに徹する」ことをスタンスとした方が良いと思われます。プログラムを終了後は多くの研究者、醸造家と交流するのは良いでしょう。愛好家の意見を好意的に受け止めてくれます。懇親会等で多くの研究者や醸造家の方々と交流できたのは私にとっては素晴らしい機会でした。
次回大会は2019年 11月29日(金)-30日(土)山梨大学 甲府キャンパスで行われます。
私は来年も参加したいと考えています。
会場の案内板。
このサイズの講堂で午前、午後を通して発表、議論が行われました。
ブドウの分析機器や天候測定の機器など様々な栽培・醸造用機器が展示されていました。
2日目はワインを飲みながらガーデンパーティ。素敵な企画でした。
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