フェノレという言葉を耳にしたことがありますか?ソムリエや醸造家が時々「フェノレの香りが・・・」とコメントされるのを聞いたことはないでしょうか?私は最近よく耳にするなと感じています。ではそのフェノレについて、日本でのフェノレ研究の第一人者 山梨県工業技術センター 恩田先生の論文など関連資料を参考に解説していきます。
ワインに含まれる香りはアロマと呼ばれ、ブドウ果実の第一アロマ、アルコール発酵の第二アロマ、熟成の第三アロマと3タイプに分けて分類されていますが、資格試験等で馴染みがあると思います。一方、ワインの品質を低下させる臭いはオフフレーバーと呼ばれ、その原因は様々です。未熟な果実によるもの、酸化による劣化、発酵管理による劣化、貯蔵による劣化、微生物汚染、コルクの欠陥、還元臭等々様々な臭いがあります。近年の研究の進歩により、このいくつかの臭いは発生機序が明らかになり、技術的に防ぐ研究が進んでいるものとしてこのフェノレがあります。
フェノレはそもそも「フェノール性の~」という意味を表すフランス語でしたが、最近ではフェノール性のオフフレーバーを表す言葉として用いられるようになりました。フェノレは100年以上前から赤ワインの特定のワイン産地やブドウ品種を特徴的な臭いとして認識されており、当時はオフフレーバーとして認識されていなかったのです。特に強い臭いは4-エチルフェノールで、馬小屋、納屋、汗で濡れた鞍と評されており、このような強烈な馬小屋臭がすると評されたシャトーもあったそうです。これはきっと「フェノレ」が原因だったのでしょうね。
ところで、フェノールはなんでしょうか?フェノールとは、ベンゼン環などに結合している水素原子がヒドロキシ基で置き換えられた化合物の総称です。ワイン中には、アントシアニン、フラボノール、タンニンなど(ポリ)フェノールが沢山あります。このフェノールの成熟はワインの味わいや色あい、品質に最も影響を与えている物質と言えるでしょう。
さて、では今回は白ワインのフェノレについて話を続けます。白ワインのフェノレは、ヴィニルフェノール類の2種〔4-ヴィニルフェノール(4VP)、4-ヴィニルグアイアコール(4VG)〕が挙げられます。4-ヴィニルフェノール(4VP)は生ゴム様臭、薬品、プラスチック、4-ヴィニルグアイアコール(4VG)はカーネーションの花、スモーキーなような臭いと言われています。それ以外にも消毒薬臭、水彩絵の具、絆創膏、線香、段ボール、ホコリ、樹脂臭、セルロイド臭などと表現されています。キューピー人形の臭いと言う方もいるとか。白ワインのフェノレ生成の原因となる微生物は、ワイン醸造に用いられるワイン酵母であるサッカロミセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae) そのものなのです。サッカロミセス・セレヴィシエは4-ヴィニルフェノール(4VP) および 4-ヴィニルグアイアコール(4VG)を生成する酵素を保持しているためなのですが、最近ではこの酵素を持たない培養酵母が市販され用いられています(写真参照)。日本の甲州による白ワインはこのヴィニルフェノール類が多く含まれているという報告があり、このような培養酵母の使用が検討されています。一方で、ワイン酵母が原因で生じる香りとも言えるため、必ずしも悪者と言い切れないのではないのではないか?という醸造家の意見もあるようです。
では次回は"フェノレの原因 ブレットとは?赤ワイン編 〔4-エチルフェノール(4EP)、4-エチルグアイアコール(4EG)〕"について紹介します。
ヴィニルフェノール類を生成する酵素を保持しない培養酵母VL1
LAFFORT社ホームページより(2018年2月アクセス)
LV1の溶かし方と投入の仕方
LAFFORT社ホームページより(2018年2月アクセス)
2コメント
2018.10.15 03:38
2018.10.12 01:27