赤ワインのフェノレ(フェノールの品質劣化)ブレタノミセス酵母(エチルフェノール生成菌)通称ブレットと呼ばれる微生物が原因です。先回述べた"ワインの品質劣化の原因となるフェノレとは?白ワイン編"ではこのブレタノミセスの話はしませんでした。では白ワイン醸造で増殖できるのでしょうか?実はほぼ増殖できないそうです。これは、ワイン醸造の際にワインが低温管理されること、アルコール発酵後すぐに亜硫酸が添加され、亜硫酸によって繫殖が抑えられること、更に一般的にpHが低いので亜硫酸が機能しやすいためなのです。 このような環境下ではブレタノミセス酵母(以下ブレット)の増殖はできません。
つまりワインの香りを「ブレット」と表現される方がいらっしゃいますが、これは赤ワインのみの香り表現ということになり、白ワインで用いるのは適切ではないと言うことになります。
では赤ワインのフェノレについて説明します。ワイン中に発現する「フェノレ」の本体は,白ワインで述べた4-ヴィニルフェノール(4VP)と 4-ヴィニルグアイアコール(4VG)のヴィニルフェノール類と4-エチルフェノール(4EP)および 4-エチルグアイアコール(4EG)のエチルフェノール類の4 種です。赤ワインでは、4VP、4VGはほとんど生成されないことがわかっています。これは赤ワインに含まれるポリフェノール類が4VP、4VGを生成する酵素を阻害するためなのです。つまり、赤ワインで問題となるフェノレは4EPと4EGのみと言うことになります。
ではどのような臭いなのか確認していきましょう。官能的な特徴としては、4EPは,「馬小屋」や「汗臭い鞍」、4EGは,「スモーキー」あるいは「スパイシー」などと説明されます。その他,「動物」,「獣」,「生革」,「ぬれた犬」, 「薬品」,「焼き畑」,「タバコ」あるいは「燻製」などとも表現されます。
ではこの臭いを起こさないようにブレットを制御するにはどのような方法があるのでしょうか?基礎的な研究としては、タンパクの清澄化剤の利用(ゼラチン,卵白など),精密ろ過,物理的な手法(低温下での熟成,低pH)などがあるようです。しかしこれらの手法は、ワイン製造への適用が困難なものも多く,現実的には亜硫酸塩の添加と低pH管理が最も有効なようです。
そもそもどんなに衛生的な環境であってもブレットは存在します。オークに棲みついているのでは?と考えられており、どんなにオークを洗浄しても取り除くことは不可能なのです。それよりは増殖をしっかり管理することが大切であると近年は考えられているようです。また、4EP、4EGは少量であれば赤ワインの香りに複雑さを与えると考えている生産者もいます。シャトー・ド・ボーカステルは以前より強い馬小屋臭を指摘されていましたが、シャトー・ヌフ・デュ・パプの1989年、90年には基準値よりも遥かに高い4EPが存在していたそうです(画像参照)。これは4EPの前駆物質を多く含むブドウ品種、ムールヴェードルの割合が多いためではないか?と言われているそうですが真実は不明です。ちなみにシャトー・ヌフ・デュ・パプ1990年はパーカーポイント96点です(Robert Parker The Wine Advocate)。
このようにブレットの臭いがあるとしても魅力的なワインは存在します。是非今度はブレットを意識してテイスティングしてみてはいかがでしょうか?
(参考)基準値425マイクログラムのところ3300マイクログラムの4EPが検出されたというChâteau de Beaucastel Châteauneuf-du-Pape Rouge 1990年
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