コールド・マセレーション(低温浸漬)とは?​基礎編

赤ワインで一般的に行われているコールド・マセレーション(低温浸漬、コールド・ソークとも呼ばれる)について、南アフリカのステレンボッシュ大学のJose Luis Aleixandre-Tudo氏のレビュー論文から解説します。赤ワインでのコールド・マセレーションの成果についてはじめて報告されたのは2005年であり、わずか10年強の技術ということになります。但しブルゴーニュ地方など仕込みの初期や寒い季節には意図せずともこの状態になっていました。

コールド・マセレーション(以下CM)は、発酵プロセスの開始を避けるために低温に保ちながら、果実の固体部分からの化合物の抽出を増加させることを可能にし、理論的にはフェノール化合物※を増加させます。赤ワインの組成上最も重要な感覚刺激を有しているフェノール化合物がこの接触期間の延長によって得ることが出来るのです。そのことによってアルコール発酵後のマセラシオン期間が短くなるため荒い渋みの抽出が抑えられ、複雑な果実味を得ることができると考えられています。

フェノール化合物の抽出/拡散は、エタノールが存在しないアルコール発酵前の環境下で起こります。フェノール化合物は⽔溶性分⼦ですが、ブドウ細胞の液胞に主に位置しており、それらを放出させるためには細胞壁を破壊、分解させる必要があります。また、フェノール化合物には、フラバン-3-オールおよびプロアントシアニジンアントシアニンおよびフラボノールがありますが、CMによって抽出される量は化学的性質の違いから異なる挙動を示します。アントシアニンの抽出は比較的容易ですが、フラボノールの抽出には時間を要します。

フェノール抽出が促進されると⾊の安定性が増し、低分⼦量フェノールの抽出が増加すると⾊素沈着によって⾊の安定性が更に促進されます。また、タンニンは、CMの終盤により⾼い果皮および種⼦の両⽅から抽出されることがいくつかの報告から観察されました。​

CMによるフェノール抽出を確実に実施するためには、より低温(4〜8℃)で10⽇間までの⻑期間を要することが報告されています。さらに、CMは、様々な気候条件で収穫される多くの品種で行われており、どの報告においてもアントシアニン、タンニンおよび他のフェノール組成物での確実な抽出効果が確認されています。

⽣産者は増加したフェノール化合物を安定化させる必要があり、そのためにはCMに加えてドライアイスの使用による冷却、SO2 の添加による安定化、酵素処理などの新しい技術を並行して用いることによりCMを確実に実施することが報告されています。

但し、驚くべきことですが、CMによってフェノール抽出物の増加が、完成したワインの官能評価に影響を及ぼしているかどうかは依然として⼗分に証明されていません。外観上の色の安定性は評価されていますが、味わいや香りへの影響があるかCMが行われたワインでの官能評価を行った研究は限られており、今後の研究が期待されています。

※フェノール化合物:フェノール化合物はサブグループに分類でき、ブドウではアントシアニン、フラボノール、およびフラバン-3-オールとして分類することができる。アントシアニンはブドウとワインの色に重要な役割を果たす。関連記事(鉄欠乏土壌のブドウへの鉄散布はフラボノイドの蓄積を促進する

Reference: Cold maceration application in red wine production and its effects on phenolic compounds: A review

Jose LuisAleixandre-Tudo, Wesseldu Toit

Department of Viticulture and Oenology, Stellenbosch University, Private Bag X1, Matieland 7602, South Africa

LWT Volume 95, September 2018, Pages 200-208

WINE FOLLY のCold soakの説明より。ここではCMの期間は12時間から5日となっていますね。

https://winefolly.com/review/winemakers-red-wine-secret-extended-maceration/

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