鉄欠乏土壌のブドウへの鉄散布はフラボノイドの蓄積を促進する

鉄(Fe)欠乏は、石灰またはアルカリ土壌での果実生産における世界的な問題である。また総面積の約3分の1が炭酸カルシウムを含んでいるぶどうを含むいくつかの果樹は、石灰質土壌のFe欠乏の影響を受けている可能性がある。
鉄は、葉緑素の合成、ミトコンドリアおよび光合成の電子伝達系の構成要素である。鉄欠乏をした植物では光合成効率や炭素固定率が低下しており、植物の生長や果実収量に影響が出る。実際にFe欠乏の果実の物理的および化学的性質に及ぼす影響が研究されている。非石灰質土壌のブドウは、石灰質土壌のブドウよりも、平均の房、果実の重量が高かった。また別の研究では低フェノールが報告されている。フェノール類はぶどうやワインの品質にとって重要な成分であり、抗酸化能、紫外線の予防効果、病原菌感染の低減など大きな役割がある。またワインの特性である色合い、渋み、苦味、および香りなど品質にも大きく貢献している。
フラボノイドはフェノール類のサブグループであり、ブドウではアントシアニン、フラボノール、およびフラバン-3-オールとして分類することができる。アントシアニンはブドウとワインの色に重要な役割を果たすが、Fe欠乏下で栽培されたブドウが、アントシアニンの濃度がより低かったことも報告されている。
本研究が行われたぶどう畑は、P(リン)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Mn(マンガン)の濃度は全て正常範囲内であったが、N(窒素)、K(カリウム)、Fe(鉄)の有機物は臨界値より低かった。pHやCa(カルシウム)およびMg(マグネシウム)は正常値より高かった。
実験は、メルロの2014年、2015年の2つのヴィンテージで行われ、Fe-EDDHA(キレート鉄)を無作為化されたブドウ樹に散布したところ、非散布群と比較して、ブドウのアントシアニンおよびフラボノールの増加、酸量の低下が確認され、pHを高めることが確認された。この結果は、ブドウの栄養価を改善し、最終的なワインの全体的な栄養状態および品質に良い影響を及ぼす可能性がある。
 
Foliar applications of iron promote flavonoids accumulation in grape berry of Vitis vinifera cv. Merlot grown in the iron deficiency soil
Shi P., Song C., Chen H., Duan B., Zhang Z., Meng J.
[In Process] Food Chemistry 2018 253 (164-170)
[参考]
メルロの葉と房 (本文の畑とは関係ありません)

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