フェノール化合物によるレトロネーザル(口腔香気)への影響とは?

スペインのCIAL(Instituto de Investigación en Ciencias de la Alimentación)研究所から2019年の研究報告。

フラボノイド(フラボノールアントシアニンおよびフラバン3オール)および非フラボノイド(フェノール酸およびスチルベン)は、フェノール化合物の主要分類である。これらの中で、フラバン−3−オール モノマーおよびそれらのオリゴマーおよびポリマーは、プロアントシアニジンまたは縮合タンニンと呼ばれ、ワインに豊富に存在し、そしてそれらはブドウの皮、種子および茎に由来する。これらの化合物は、ワインの感覚特性、例えば、色、渋み、および苦味に大きな影響を与えている。

これらのフェノール化合物がいくつかの芳香化合物と「塩析※」することが報告されている。これは、ワインが口内に入ると芳香成分が唾液や口腔内の粘膜との接触により塩析し、レトロネーザルでの香りが変化している可能性がある。唾液が口腔内でのポリフェノールと粘膜皮膜の一部を形成するタンパク質との相互作用を起こすことが報告されている。

※塩析:ある物質の水溶液に塩類を大量に加えてその物質(溶質)を析出させること。タンパク質やその他の親水コロイドの溶液からコロイドを析出させるのに利用される。石鹼(せつけん)の分離の過程もこの例。(三省堂 大辞林)

本研究の目的として、ワイン味覚中の経口アロマ放出におけるフェノール化合物の役割を探るために、ロゼワインに3種類の市販のフェノール化合物を加えたもの(①70%フラバン-3-オールモノマー、28%プロシアニジン、②21%フラバン3-オールモノマー、78%プロシアニジン、③黒ブドウの果皮からの抽出物(アントシアニン))、そして④添加なしのロゼワインの4種類を対象とした。更にこれらのワインには、6つの芳香化合物[酢酸イソアミル(バナナ)、ヘキサン酸エチル(リンゴ)、リナロール(マスカット)、グアイコール(化学物質)、β-フェニルエタノール(蜂蜜)、β-イオノン(スミレ)]を添加し芳香化した。飲んだ直後(ベースライン)、吐き出し直後(即時反応)、および4分後(長期持続)の異なる時間で、6人の被験者において固相マイクロ抽出(SPME)を用いてMS分析を行い放出量をモニターした。更にこれらの変化量の官能評価を行うために、訓練された10名の官能評価者を用いた記述分析も行った。

結果として、フェノール化合物がワインの芳香に影響を与えることが証明された。フェノール抽出物を添加したワインは、ほとんどの芳香化合物について、より低い放出濃度となった。この濃度減少は、①、②のブドウ種子からの抽出物を含むワインでは、③のアントシアニンを含むワインよりも顕著であった。

さらに、芳香に対するフェノール化合物の影響は、ワインの吐き出し直後と4分後でほぼ同じであり、したがって、即時から長期にわたって芳香化合物に影響を及ぼした。

またフェノール抽出物による芳香の変化は官能評価でも同様の結果となった。10名の官能評価はヘキサン酸エチル、酢酸イソアミルに関連する「リンゴ」および「バナナ」について統計的に有意に低い値となった。有意差はなかったが他の項目においても低い値であった。このことにより成分分析、官能評価の両面において一貫した変化が確認された。

(私見)

フェノール化合物は口腔内で芳香成分と相互作用を示し、いくつかの代表的な芳香化合物はその影響により口腔内で放出量の低下が起きるという報告でした。つまりオルソネーザル(鼻腔香気)レトロネーザル(口腔香気)でワインの香りの印象が変わる可能性があります。ワインテイスティングではオルソネーザルとレトロネーザルを分けて捉えることがワインの理解のために必要では?と私は考えています。

Reference:Individual differences and effect of phenolic compounds in the immediate and prolonged in-mouth aroma release and retronasal aroma intensity during wine tasting

Perez-Jiménez M., Chaya C., Pozo-Bayón M.Á.

Food Chemistry 2019 285 (147-155)

(参考)ニチレイにもレトロネーザルアロマの測定方法について記事がありましたのでご紹介します。

おいしさを見える化する!レトロネーザルアロマを分析できる"MS Nose®"(エムエスノーズ)とニチレイの挑戦

https://www.nichirei.co.jp/lab/ms-nose/1-4.html

今回のような嗅覚実験画像が見つからなかったのですが同様の試験画像がありました!この実験なかなか苦しそうです(笑) ※今回の実験とは関係ありません。

Reference:Syft technologies(https://www.syft.com/)


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