ワインの香りを化合物から整理する⑩ 揮発酸(VA)その①(酢酸臭)

揮発酸とはなんでしょうか?正しくは揮発性酸であり、「常温常圧で揮発する酸」という意味です。揮発するので香りとして感じることができます。

揮発酸はワイン用語でいうVolatile Acid(VA)の訳になります。ワインに存在する揮発酸は主に酢酸、葉酸、プロピオン酸、ブチル酸などがありますが、不快臭としてされているのは主に酢酸、ならびに酢酸エチルです。但し通常のワインにも一定量含まれています。通常のワインは0.2~0.6g/L含まれており、OIV※の規定では通常のスティルワインにおいては1.2g/L、アイスワインや貴腐ワインについては2.1g/Lが最大許容限度とされています。その一方で、最低0.9g/Lの酢酸濃度の存在が苦味、酸味のある余韻がもたらすことができないという報告もあります。酢酸はワインに必要な存在なのです。

※O.I.V:国際ぶどう・ぶどう酒機構。Office International de la vigne et du vinの略称で、ぶどう栽培やぶどう品種、ワインづくりに関する総合的な研究機関。フランスに拠点を置く。

ではなぜ酢酸が過剰産生されるのでしょうか?それは酢酸菌の増殖が主な原因となります。多くはワインの樽熟成中に空隙ができ、酢酸菌のような好気的な汚染微生物の生育が促進される様々な条件が満たされたときに引き起こされます。これは例えば温度、アルコール濃度、栄養分の存在、溶存酸素濃度、pH、亜硫酸濃度が影響しています。好気的な汚染微生物の生育を抑制するためには、貯蔵容器を常にワインで満量にして液面と空気との接触面積を最小限にする必要があります。ワイン貯蔵中の管理が大切になります。

酢酸菌とはどんな菌なのでしょうか?酢酸菌は好気性であり、酸素濃度の低い環境下では生育できません。食酢などを製造する際に必要な菌で、大まかに言うとアルコールを酸に変える菌です。アルコール発酵中の酵母、MLF中の乳酸菌などからも少量産生されます。酢酸菌は分類上アセトバクター(Acetobacter)属とグルコバクター(Gluconobacter)属に属していますが、ワイン中に影響するのはアセトバクターと言われています。アセトバクターはエタノールを酢酸に、酢酸を二酸化炭素と水にまで酸化しますが、エタノールの産生が多くなると逆に酢酸の酸化は徐々に阻害されるため、アルコール発酵の進行と共に産生は低下します。このように通常は品質劣化につながる増殖は起こりませんが、酢酸菌が残存した場合酢酸の産生により品質劣化が起こるのです。また貴腐菌(ボトリシス・シネレア)によって貴腐化したブドウには酢酸菌が非常に多く繁殖するため、通常のワインに比べて酢酸濃度が高いことがあります。前述した通りOIVの酢酸許容濃度が高い点からもよくわかります。

さて、皆さんもワインがお酢のようになったという話を聞いたことがあると思います。これは酢酸菌がアルコール(エタノール)を酸化させ、酢酸を大量に産生したことが原因として考えられますよね。

このようにワインの敵と思われている酢酸ですが、皆さんの二日酔いの防止には役に立ちそうです。キューピーの開発した酢酸菌酵素含有の健康食品「よいとき」。体内アルコール濃度の低下(ヒト)、肝機能の悪化の軽減(マウス)といった臨床成績が示されています。ワイン会や試飲会などの際に試してみてはいかがでしょうか?

次回は酢酸エチルについて紹介します。

(参考資料):

新ワイン学 :戸塚 昭(編集幹事) (監修), 東條 一元(編集幹事) (監修) 出版社: ガイアブックス

「The impact of acetate metabolism on yeast fermentative performance and wine quality: Reduction of volatile acidity of grape musts and wines」

Vilela-Moura A., Schuller D., Mendes-Faia A., Silva R.D., Chaves S.R., Sousa M.J., Côrte-Real M.

Applied Microbiology and Biotechnology 2011 89:2 (271-280)

キユーピーと酢酸菌

https://www.kewpie.com/rd/product/finechemical/acetobacter/

よいとき

https://www.kewpie.co.jp/yoitoki/

対象者
日常的に飲酒習慣のある40~60代の健康な成人男性7名
方法
同一の食事をした2時間後に、酢酸菌酵素を配合したカプセルとアルコール含有飲料(体重当たり0.5gのアルコール(エタノール)を含む)を摂取。摂取前、摂取30分後、60分後、120分後、180分後の呼気アルコール濃度と血中アルコール濃度を測定。同じ対象者で別の日に、酢酸菌酵素を含まないカプセル(プラセボ)を摂取し、同様に呼気アルコール濃度と血中アルコール濃度を測定。


マウスを3群に分け、それぞれショ糖溶液(対照)、アルコール(エタノール)、またはアルコール+酢酸菌酵素を2週間投与。アルコールは体重1kgあたり2.5gを1日3回投与。酢酸菌酵素は10mgをアルコールと同時に1日3回投与。
※1GOT(AST)、GPT(ALT)…肝臓に存在する酵素。肝機能が悪化し細胞が破壊されると血液中に流出し数値が上昇する。
※2脂肪を赤い色素(オイルレッドO)で染色した組織標本。脂肪肝が進行するほど赤色が濃くなる。

よいとき 2粒×5包(定価950円)

https://www.amazon.co.jp/dp/B0752N6HKM

アマゾンで買えます。キューピーの回し者ではありません(笑)

ワイン・ブログ 情熱とサイエンスのあいだ

ワインに関する科学的研究を、私の超個人的なフィルターを通して、ソムリエのみならずワインラヴァーの皆様にお伝えするそんなブログです。ワインに関しての最新研究やワインサイエンスを通してマニアックなワインの世界を突き詰めたい方々にお役立ていただけると嬉しいです。

0コメント

  • 1000 / 1000