シャルドネのMLFに用いるべき容器はステンレスか、樽か?

2019年フランスのボルドー大学からの研究報告。

シャルドネは、世界で最も古く最も広く分布している白ワイン用ブドウ品種の1つであり、産地適応力が極めて高い品種である。柔軟性の高い特性により様々な香りや風味、多岐に渡る味わいを有する無数のシャルドネが存在することになる。更に重要な能力として熟成(エイジング)がある。シャルドネはマロラクチック発酵(MLF)、ならびにオークバレルでの熟成は、伝統国だけでなく、新興国においても慣習的に行われている。

MLFは、乳酸菌(LAB)がリンゴ酸を乳酸に変換することによって、ワインの酸度を低下させること、および安定化することに寄与するだけでなく、ワインの芳香化合物を増すことにより風味の複雑さを増強する。

オークバレルにおける熟成は、ワインに一定の酸化を促し色の安定化に役立つ可能性がある。また木質からの化合物(エラジタンニンなどを中心とする木質成分)がワイン中に放出される。それらの物質はバレル熟成期間、トーストの程度によって調整される。

さて、MLFに用いる容器の違いによる白ワイン中のエラジタンニン量を比較する研究は未だ発表されていない。本試験はMLFと熟成の間のバレルの使用によってシャルドネの特性にどのように影響するか検討する目的で実施された。使用したバレルはフランスの中央地域に位置する同じ森林からの2つの種(95% Quercus petraeaおよび5% Quercus robur)由来のフランス産オークを使用した。バレル(225 L)は、伝統的な方法で3つのトースト法(T1、T2、T3)で行った。まずバレル全てを45℃で20分の予備トーストを施した。T1およびT2トーストについて、それぞれ55±2℃および52±2℃までの温度で36分間加熱した。T3トーストの場合、温度を60±2℃まで10分間穏やかに上昇させ、その後45±2℃まで10分間徐々に低下させた。アルコール発酵を終えたシャルドネをステンレスタンクとバレルの2種に分け、図1の通り醸造を行った。

図1ワイン製造のプロセスと実験デザイン


HPLCやガスクロマトグラフィーを用いて成分分析を行った結果では、トーストされたバレルを用いてMLFを行った群(バレルMLF群)は、ステンレスタンクでMLFを行った群(ステンレスMLF群)よりもエラジタンニン含量に対してより強い影響を示した。これは過去に行われた赤ワインでのエラジタンニン含量の増加と同じ傾向を示した。またバレルMLF群は、より多量の木質のアロマであるバニリンおよびオークラクトン、オイゲノールを示し、一方、カプロン酸エチルなどのエチルエステルや酢酸イソアミルなどの果実系の芳香化合物はステンレスMLF群で有意に高く、バレルMLF群ではより低濃度だった。 

官能分析はボルドー大学でディプロマ等の資格を持つ専門家19名が、香りの強さ、木質の香り、桃およびアプリコットの香り、柑橘類、ナッツ、花、火打石、ワインの味わい(芳香性の持続性、甘さ、酸味、食感、苦味)について評価した。違いが見出された要素としては、ステンレスMLF群では柑橘や花の香りが高く、バレルMLF群ではナッツの香りが強いという結果であった。しかし、それ以外の項目ではステンレスMLF群、バレルMLF群で有意な差は見出されなかった。つまり、バレルを用いてMLFを行った場合、シャルドネの特徴的な芳香(桃、アプリコットおよび火打石)を変化させるほどではなく、芳香の強度および持続性、また味わい(甘味、酸味、口当たり、苦味)に大きく影響せず、果実、花およびミネラル(火打石)などの香りを覆い隠すほど強い木質の芳香を付与することはなかった。


(私見)シャルドネのMLFをステンレスタンクで行うか、バレル(樽)で行うか、この2種類の方法による違いを比較した研究です。いくつかの成分の含有量は確かに異なりましたが、官能的な評価においては明確な違いがありませんでした。ステンレスタンクにてMLFを行う方が効率性、衛生的にも良いと一般的には考えられますので、樽内でのMLFの実施に一石投じた研究結果だと私は理解しています。


Reference: Use of oak wood during malolactic fermentation and ageing: Impact on chardonnay wine character

Food Chemistry 2019 278 (460 - 468)

González-Centeno M.R., Chira K., Teissedre P.L.


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