マロラクティック発酵(MLF)の基本

ワイン製造の重要な工程の一つとして、乳酸菌によるマロラクティック発酵(malolactic fermentation)通称MLF※1があります。

MLFは、酸味の強いワイン、主に赤ワイン、一部の白ワインの酸味を和らげ、香味をまろやかにする重要な役割を担っています。今回は、MLFの目的について山梨県工業技術センター 恩田 匠先生の論文を参考に紹介していきます。

一つ目はまず減酸効果です。未熟なブドウ果実には多量のリンゴ酸が含まれており、リンゴ酸は高い酸をもたらします。リンゴ酸にはカルボキシル基が2基存在するため鋭い酸をもたらしますが、MLFを経ることによってカルボキシル基1基の乳酸に変換されることにより酸度の低下がもたらされます(図参照)。なお、マロラクティック(malolactic)とは、リンゴ酸:マロ(malic acid)→乳酸:ラクティック(lactic acid)への変換が語源になっています。

二つ目は香味の複雑さの向上です。乳酸菌の働きによって、乳酸だけでなくジアセチルやアセトインなどの化合物が産生されることによって香味の複雑性が向上します。但し産生される量が多すぎると官能的にはオフフレーバーと捉えられることがあります。次回のブログでジアセチル、アセトインを紹介します。

三つ目は微生物学的な安定です。リンゴ酸は微生物の栄養源となる場合があり、汚染微生物の発生リスクは軽減されます。しかしその一方で、リンゴ酸の減少、乳酸の増加により酸度が低下し亜硫酸の働きが鈍くなるため別の汚染微生物の増加リスクが上がります。特に酸度の低い国産ブドウを原料とする場合は注意が必要と考えられています。また、MLF期間中は微生物汚染の潜在リスクが高まるため、アルコール発酵と同時にMLFを実施することができ、微生物汚染のリスクを軽減することができるコ・イノキュレーションという乳酸添加法に注目が集まっています。コ・イノキュレーションに関してはまた後のブログで紹介します。

古くは、MLFは野生乳酸菌を用いて自然に生起する現象と考えられていましたが、非常に不安定であることから優秀な乳酸菌を分離・選抜した乳酸菌スターターを用いることが一般的になっています。最近では様々な特徴を持つ乳酸菌が市販されており、低pHでの増殖性、ジアセチルやアセトインの過剰産生を行わないなどの特徴を持つ乳酸菌スターターが発売されています。日本でも2012年に山梨県ワインセンターで実証実験が行われており、マスカット・ベリーA、カベルネ・ソーヴィニヨンを用いて自然MLFを促した群と乳酸菌スターターを添加した群で比較したところ、乳酸菌スターターを添加した群でワインの品質向上に繋がる結果が示されました。

では次回はMLFによって生じる香り成分であるジアセチル、アセトインの特徴について紹介します。

※1MLFとは、L-リンゴ酸がL-乳酸に転換される反応のことです。(下記 反応式)

COOH-CH2-CHOH-COOH → CH3-CHOH-COOH + CO2

乳酸菌によってリンゴ酸から乳酸に変化します。このとき2基あったカルボキシル基は二酸化炭素として遊離し1基に変化します。このことによって酸が柔らかくなると考えられています。

ワイン・ブログ 情熱とサイエンスのあいだ

ワインに関する科学的研究を、私の超個人的なフィルターを通して、ソムリエのみならずワインラヴァーの皆様にお伝えするそんなブログです。ワインに関しての最新研究やワインサイエンスを通してマニアックなワインの世界を突き詰めたい方々にお役立ていただけると嬉しいです。

2コメント

  • 1000 / 1000

  • akitosuz

    2018.09.24 15:26

    @中村まみ中村さん、コメントありがとうございます❗️勿論どうぞ❗️
  • 中村まみ

    2018.09.20 20:53

    来年のシニアワインエキスパート合格目指して勉強しています。すごく参考になります。私のブログで紹介させて頂いてもよろしいでしょうか?