タンニンの正しい理解 その②(アントシアニン、プロアントシアニジン、エラジタンニン)

前回に引き続き更にタンニンの理解を深めたいと思います。

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外観への影響(アントシアニン)

ではまずワインの外観に関してですが、色素成分のアントシアニンの影響です。赤ワインやロゼワインを赤く色付けているのはアントシアニンです。アントシアニンは次に紹介するプロアントシアニジンの配糖体で、非常に似た構造を持っており、ポリフェノールの一種フラボノイドと呼ばれる化合物に該当します。正確にはタンニンではありませんが兄弟のような関係です。

アントシアニンは果皮に偏在している特徴がありますが、タンニンの含有量が多いほど、アントシアニン類も多い傾向です。つまり赤色が濃いほど渋みもより強く、結果的にボディーがあるワインになることが多いことが考えられます。

味わいへの影響(プロアントシアニジン)

では味わいについてです。タンニンは赤ワインの3つの骨格(甘み、酸味、収斂性)のひとつを構成する重要な役割があります。

この味わいの中心となるのタンニンは縮合型タンニンと呼ばれ、プロアントシアニジンが主要な物質です。この成分は、主として、ブドウの果皮と種子に存在します。縮合型タンニンの多くはブドウ果皮や種子に分布する特徴があります。アントシアニンと似た構造を持っており、関連性が高い化合物です。

果皮、種子を一緒に発酵させる「醸し発酵」を行うと赤ワインではタンニンがより多く抽出されます。また、作用の異なる物質が存在するので、同じタンニンに属していても渋みの程度、質は異なっています。種子や木質部のタンニンは果皮に含まれるタンニンより分子量が小さく渋みよりも苦味を与えると考えられています。つまり果皮に含まれるタンニンの方が、キメが細かく、種に含まれるタンニンの方が、キメが荒い傾向にあります。

樽からのタンニン(エラジタンニン)

また樽から溶出されるタンニンも存在します。これはエラジタンニン、ガロタンニンなどと総称される加水分解型タンニンです。更にバニリン、シリングアルデヒドなどのフェノール類も存在します。エラジタンニンは樽熟成中、徐々にワインに溶出します。 溶出の割合は1年間で0.2 g/Lといわれ、ワインのストラクチャー(ブドウからのタンニンは2~4g/L)を補強します。さらに、エラジタンニンには強い酸化防止作用があります。 オーク樽熟成された赤ワインでは酸化が抑制され、色が安定します。 オークタンニンがアントシアニンの代りに酸化されることにより、アントシアニンはブドウのタンニンと結びつき、安定した色を構成できるのです。 

ちなみにオークの種類はフランス産(フレンチオーク)とアメリカ産(アメリカンオーク)に大別できますが、アメリカンオークからは香気成分であるオークラクトン(3-メチルオクタノ-4-ラクトン)がワイン中に抽出される量がフレンチオークに比べ顕著に多く、エラジタンニンなどのフェノール化合物の抽出はフレンチオークより少ないことがわかっています。この二つのオークがワインに与える影響は大きく異なることが推測できます。

タンニンの表現方法はタンニンの量とキメが細かいや荒いなどといった質の二方面からと分析することができるのです。

次回はタンニンの成熟とタンニンが多い品種について紹介します。


〈参考〉タンニンの語源(鞣皮):布を知らなかった古代人の衣服は、動物の皮を利用していました。そのため、皮が腐敗したり、硬くなる欠点を取り除くために、動物の脂、草や木の汁につけたり、煙でいぶしたり、いろいろと工夫していました。その方法の中で最も発展した方法は、草や木の汁を使う方法で現在「タンニン鞣し」として行われている方法です。今日残されている最古の革製品である古代エジプト時代のものから裏付けされています。タンニン鞣しは、草木の中に含まれているタンニン(渋)とコラーゲン(たんぱく質)を結合させて鞣す方法です。しかし、古代には純粋なタンニンを抽出する技術がなかったので長い時間かかりました。

Reference:一般社団法人日本タンナーズ協会HP(http://www.tcj.jibasan.or.jp/)

(参考資料)

ワインの味の科学:ジェイミー・グッド (著) 伊藤 伸子 (翻訳) 出版社: エクスナレッジ

新ワイン学 :戸塚 昭(編集幹事) (監修), 東條 一元(編集幹事) (監修) 出版社: ガイアブックス

Chêne Développement Newsletter No.6:有限会社オークバレル

このようにタンニンの溶液に皮を漬けこんで腐敗の原因となるたんぱく質を除去します。

皮が革になる! ピット槽での「植物タンニンなめし」@栃木レザー(https://muuseo.com/square/articles/94)

ワイン・ブログ 情熱とサイエンスのあいだ

ワインに関する科学的研究を、私の超個人的なフィルターを通して、ソムリエのみならずワインラヴァーの皆様にお伝えするそんなブログです。ワインに関しての最新研究やワインサイエンスを通してマニアックなワインの世界を突き詰めたい方々にお役立ていただけると嬉しいです。

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