Extended maceration(延長マセレーション)の実際の効果とは?

前回紹介したExtended maceration(延長マセレーション)について、カリフォルニア工科大学からの2019年の研究報告です。

標準的な赤ワインの製造では、ブドウの搾りかすとマスト(果醪)の接触はプレ・ファーメンテーションとアルコール発酵の期間のみ行われ、7日~15日程度のアルコール発酵終了後には搾りかすは除去される。長い漬け込みはワイナリーでの発酵タンクの回転率にも影響する。Extended maceration(以後EM)の事例として、30日間のEMの実施によりカベルネ・ソーヴィニヨンおよびメルロの種⼦由来のタンニンの抽出と保持を増加させ、同時にワインの色は薄くなると報告されており、官能評価では苦味と渋みを増加させた。しかし、6か月間の⻑期間にわたって⾚ワインに適⽤されたEMの効果についての科学的な報告はない。 

本研究の⽬的は、ピノ・ノワール、ジンファンデルによるワインを1か⽉および6か⽉間のEMの実施による影響を科学的に評価した。また、ブドウの搾りかす、特に種⼦からのフェノール成分の抽出は部分的であるため、搾りかすはフェノール成分の供給元と考えることができる。そこで、ピノ・ノワールとジンファンデルのEM中に2倍量に相当する搾りかすを加えることについても評価した。特定のフェノール類やタンニン、アントシアニン、および⾼分⼦ポリマー(高分子ポリマーについては前回ブログを参照)の抽出と変化について計測を行った。

実験の対象となるブドウはカリフォルニア州のEdna valleyのピノ・ノワールとジンファンデルを用いた。両品種共にEMを行わないコントロール群、そして1か月、6か月のEMを行った群(1か月EM群、6か月EM群)、更にコントロール群に使用しなかったブドウの搾りかすを加え、2倍量にして1か月EMを行った群(搾りかす2倍量群)の4群での比較を行った。更に瓶熟成を3か月、15か月に分けて評価した。EM中は窒素によって酸素との接触を最小限にコントロールし、微生物からの腐敗リスクを抑える管理が行われた。

結果として、ピノ・ノワールにおいては、コントロールと比較してすべての群においてアントシアニンが減少、総フェノール量、高分子ポリマーは増加した。3か月、15か月の瓶熟成における評価としては、アントシアニンは15か月の瓶熟成により減少し、高分子ポリマーは増加、総フェノール量は変化しなかった。6か月EMではコントロール群に比べタンニン量を13倍に増加させた。ワインのアントシアニンおよびアントシアニン由来の⾊素組成物の減少、更には吸光度測定による⾊彩も減少した。

ジンファンデルにおいてはピノ・ノワールと同様の結果は起きなかった。アントシアニンは6か月EMで顕著に減少し、タンニン量はコントロール群に比べ1.6倍増加させた。高分子ポリマー、総フェノールはEMによって大きな変化は起きなかった。

搾りかす2倍量群および1か⽉EMは、どちらのブドウ品種のタンニン抽出に大きな影響を与えなかった。これはEMによるタンニンの抽出は、搾りかすが多くともタンニンの飽和限界が起きること、1か月では顕著なタンニン抽出が起きないという仮説が考えられる。

結論として、ピノ・ノワールでは、6か月のEMの実施による有用性が確認された。ジンファンデルでは、6か⽉EMでのタンニンのわずかな増加というメリット、色彩の減弱によるデメリットは、EMを実施する経済的な負担に見合わないと考えられた。

(私見)EMによる効果を科学的に分析した報告です。前回報告した通り、ピエモンテでは一般的なこの手法をカリフォルニアで実践する生産者が増えているようです。私が調べた限りではカリフォルニアのカベルネ・ソーヴィニヨン、オーストラリアのニューサウスウェールズ州のシラーズのテクニカルシートにEMの記載がありました。今後はEMによる官能評価の結果を知りたいこと、更に効果的に実践されたピノ・ノワールを飲んでみたいですね。

Reference: Chemical consequences of extended maceration and post-fermentation additions of grape pomace in Pinot noir and Zinfandel wines from the Central Coast of California (USA)

L. Federico Casassa Robert Huff Nicholas B.Steele

Wine & Viticulture Department, California Polytechnic State University, San Luis Obispo, CA 93407, USA

Food Chemistry Volume 300, 1 December 2019, 1251471 December 2019, 125147

図1

図2

図1ピノ・ノワール、図2ジンファンデル。

3か月と15か月の瓶熟成の後、4つの異なるマセレーションの比較(A)アントシアニン、(B)タンニン、(C)総フェノール、(D)高分子ポリマー。

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