発酵前凍結処理(PEF:Pre-fermentation freezing)でソーヴィニヨン・ブランの個性が際立つか?

オーストラリア 南オーストラリア州 アデレード大学からの2019年の報告。

ソーヴィニヨン・ブランは、主要なワイン生産国で最も広く栽培されているブドウ品種の1つであり、2017年OIVの報告によると2000年から2015年までの間に世界の栽培面積が3%以上増加した唯一の白ブドウ品種である。ソーヴィニヨン・ブランの人気は個性的で特徴的な「Grassy(草、芝生)」、「シトラス」、「トロピカルフルーツ」のアロマ、メトキシピラジンおよびチオール化合物によってもたらせされる。

チオール化合物に関しては、4-メルカプト-4-メチル-2-ペンタノン(MMP)や 3-メルカプトヘキサノール(3MH)、3-スルファニルヘキサン-1-オール(3-SH)、3-スルファニルヘキシルアセテート(3-SHA)、および4-メチル-4-スルファニルペンタン-2-オン(4-MSP)があり、 「パッションフルーツ」、「グレープフルーツ」、「グァバ」、「セイヨウツゲ」のアロマを与えている。3−SHおよび4−MSPは、ブドウから抽出された不揮発性の前駆体からアルコール発酵を通して形成されることがわかっている。しかし、チオール化合物の生成経路を説明することは極めて難しく、特にブドウ栽培からどのように合成を促進していくかその方法はわかっていない。しかしブドウの発酵前凍結処理(PEF:Pre-fermentation freezing)は、チオール前駆体の研究において興味深い報告があった。いくつかの報告では、2か月-20℃で保存した冷凍ブドウにおいて、グルタチオニルヘキサン-1-オール(Glut-3-SH)が約4倍に増加、破砕したソーヴィニヨンブランのマストにドライアイスを加え凍結、24時間かけて解凍させることによって行われたPEFは、ワイン中の3-SHおよび3-SHA濃度が増加した。

※そもそも低温浸漬(一定期間CO2下での低温浸漬)またはブドウ、マストの凍結乾燥は、果実の損傷を誘発し、成分の抽出を促進するために用いることができる。またワインの不揮発性成分(フェノール化合物、有機酸など)や安定性への好影響も報告されている。

本研究では、南オーストラリア州のアデレードヒルズGIにある7つのブドウ畑の、5つのクローンのソーヴィニヨン・ブラン 21サンプルを使用した。方法としては、ブドウを破砕しドライアイスによって冷却した。ジュースは4℃で12時間冷やされ、2つのグループに分けた。グループ①のジュース(n = 21)はそのまま発酵させる。グループ②のジュースは、-20℃で保存した後に解凍し発酵させる。グループ③は、ブドウ自体を凍結処理を行い-20℃で保存、1ヵ月後、4℃で一晩解凍し、解凍したブドウの房を粉砕して得られたマストを用いて発酵を行った。

結果として、前駆体及びチオール化合物は地域的な多様性を示し、特にグルタミン酸量との強い相関を示した。グループ③の冷凍ブドウ由来のワインは、グループ①に比べチオール化合物の有意な上昇(最大10倍)が見られ、チオール前駆体物質の増加(最大19倍)が見られた。

今後の研究により、最適なPEF条件、例えば、PEFの実施時間、保存温度、解凍プロセスなどに焦点を当てた実験を実施する必要があり、ワイン製造中のチオール化合物を増加させるための新たな戦略が期待される。

(私見)

ソーヴィニョン・ブランにおけるインパクト化合物であるチオール化合物を増加させる醸造的な取り組みについての報告です。ソーヴィニヨン・ブランの個性を発揮するための新たな手法として今後注目されるかもしれません。但しチオール化合物の含有量が増加することによって、人による官能評価でどのような評価となるのか?続報が期待されます。

Reference:Investigation of intraregional variation, grape amino acids, and pre-fermentation freezing on varietal thiols and their precursors for Vitis vinifera Sauvignon blanc

Chen L., Capone D.L., Nicholson E.L., Jeffery D.W.

Food Chemistry 2019 295 (637-645) 

Freezing Sauvignon blanc grapes increases volatile thiols in wines

http://winetechscan.blogspot.com/2019/06/freezing-sauvignon-blanc-grapes

南アフリカのWinetechからは2019年6月25日にレポートされていました。日本語ではこのブログが初めてなので1か月以上の遅れ・・・。頑張ります!

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