スペインのラ・リオハにあるInstitute of Grapevine and Wine Sciencesからの2018年の研究報告。
ワインという液体は、非常に複雑なマトリックスで構成されており多くの無機物を含有している。その無機物の含有は4つのファクターから影響を受けていると考えられる。
① 畑の土壌の地質年代学的な性質を反映した土壌からの無機物の取り込み
(海岸地域の近くに位置するブドウ畑は、海または海からの風の影響を受けるなど)
② ブドウの外部汚染(無機農薬、除草剤、殺菌剤および肥料の使用、過度の環境保護、あるいは環境汚染)
③ 醸造工程中の汚染(パイプ、樽との長時間の接触、添加物、清澄剤の使用)
④ ブドウの熟度、品種、気候条件
ワイン中に含まれる無機物の知識は、消費者および生産者の両方にとって大きな関心事である。
本研究では、34種のAOC Riojaのワインを用い、白ブドウ(Viura、Tempranillo blanco)、黒ブドウ(Tempranillo、Garnacha、Maturana、Graciano)であった。これらのワインを用い、ブドウ品種、ブドウの収穫産地、土壌の種類、葉への窒素適用(尿酸散布)、SO2添加の有無、樽熟成の有無という要素について各ワインをICP-MS※1を通して、無機物分析を行い比較したところ、元素の含有量を測定することによってこれらの要素の判別を行うこと可能であった。
※1:ICP-MSは、プラズマ(ICP)をイオン源として使用し、発生したイオンを質量分析部 (MS)で検出する機器で、主に水質中の金属分析に用いられている。周期表上のほとんどすべての元素を同時に測定可能、更にナノグラムレベルまでの測定が行える。従ってワイン中の詳細な元素分析が可能である。
結果は、Sr(ストロンチウム)はワイン中で目立って濃度の高い微量元素であることが示された。赤ワインと白ワインでは、Co(コバルト)は赤ワインより白ワインで有意に高かったが、Al(アルミニウム),Fe(鉄),Ni(ニッケル),Ba(バリウム),Pb(鉛)含量は白ワインより赤ワインで高かった。これは果皮のマセレーションによることが考えられる。Cs(セシウム)およびPb(鉛)は、土壌タイプをワインに特徴付ける主要な元素であった。数回の葉への窒素適用(尿酸散布)後に醸造されたワインは、Pb(鉛)、Ni(ニッケル)、Mn(マンガン)およびZn(亜鉛)に差が見られた。ワイン中のCs(セシウム)、Mg(マグネシウム)、Cu(銅)およびPb(鉛)の含有量は、ワイン製造における亜硫酸の使用を特徴づけた。また、樽熟成の有無を、Na(ナトリウム)およびCs(セシウム)濃度の違いによって区別できた。
ICP-MSによる無機物分析は、ブドウ品種(97.0%)、ブドウの収穫産地※2(100%)、土壌の種類※3(100%)、葉窒素適用(100%)、SO2添加の有無(100%)、樽熟成の有無(95.8%)について(%)で示した通り正確に分類することを可能にした。ICP-MS分析は、ブドウ栽培、醸造についてワインを「指紋化」する有用な手法であり、将来的には、偽物ワインの判別にも利用できそうだ。
※2:ブドウの収穫産地は、AOC Riojaの、La Grajera、Valdegon、Cenicero、Corera、Alfaroであった。
※3:土壌調査分類により、La Rioja の土壌は、Fluventic haploxerepts(FH)、Typic calcixerepts(TC)、およびPetrocalcic palexeroll(PP)に分類された。
Reference: Classification of wines according to several factors by ICP-MS multi-element analysis
Pérez-Álvarez E.P., Garcia R., Barrulas P., Dias C., Cabrita M.J., Garde-Cerdán T.
Food Chemistry 2019 270 (273-280)
Riojaの有名な生産者であるMarques de riscalに併設するHotel Marques de riscal。大変印象的なデザインは複雑な構造の建築を得意とするフランク・ゲーリー作。一度訪問してみたいものです。
※Marques de riscalは本論文とは関係ありません。
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