タンニンと唾液、脂質の関係性とは?①ワインとタンニンの歴史

2021年に発表されたボルドー大学Dufourc氏 の“Wine tannins, saliva proteins and membrane lipids”の総説論文からタンニンと唾液の役割、脂質との関係性について見ていきたいと思います。

ワインの歴史

ワインの最も古い起源として、2017年に酒石酸とタンニンを含む6000年前のジャー(Jar)が南コーカサス(現ジョージア)で発見され、その当時の人々がすでにワインの造り方を知っていたことわかりました。しかし、ワイン造りはその後の長い歴史の中で製法が確立しておらず、樹脂やスパイスなどの添加物を加えないと長期間の保管が出来ませんでした。

14世紀の初めには、フランスのボルドーから北ヨーロッパの国々、特にイギリスにワインの輸出が始まりました。この時代のワインはプリムール(収穫年の新酒)であり、安定せず輸送中に変質を起こすことがあったためその年に飲み切るしかありませんでした。1866年にフランスの生化学者 ルイ・パスツールがアルコール発酵における酵母の役割を発見したことを契機に長期間でも安定するワインの生産が可能になりました。

近年では赤ワインや地中海料理に豊富に含まれるポリフェノールによって不飽和脂肪酸などへの抗酸化作用があることが確認され、これらの作用によって心血管疾患に対する地中海の人々が強い抵抗力を持つことが分かり、「フレンチ・パラドックス」と呼ばれています。

アルコール発酵のメカニズムが発見されてからワインの研究は進歩を続けており、ワインを構成する化合物、およびこれらの分子と人体の感覚機能の各受容体との間で生じる物理的および化学的メカニズムの探求が進んでいます。

ワインの成分と人体への生理作用

一般的な方法で造られるワインであれば、その成分は全てブドウの房に由来します。現在までに同定されているワイン中の化合物は約1000種類あり、主なものは糖分、水分、有機酸、ワインに色を与えるポリフェノール、また、発酵を引き起こす酵母やバクテリアなども含まれます。

ではワインを飲用すると生体にどのようなことが起こるのでしょうか?ワイン中のポリフェノール、アルコールは口腔内に存在する唾液タンパク質や脂質、味覚受容体、および食物との間で相互作用を起こします。これらの相互作用は、五味と呼ばれる各味覚(塩味、苦味、甘味、酸味、旨味)、そして触覚のひとつである収斂性として人間に知覚されるのです。この収斂性を生じさせる主な成分がタンニンです。

タンニンとは?

タンニンは古代ギリシャ時代に動物の皮を革に変えることができる植物性成分として歴史の中に登場しました。ところで皆さんはポリフェノールとタンニンの違いをご存知でしょうか?タンニンは植物に由来し、タンパク質、アルカロイド、金属イオンと反応し強く結合して難溶性の塩を形成する水溶性化合物の総称と定義されています。化合物を分類するための名称ですが、化学の分野では1990年頃から性質から化学構造で分類した名称を優先することが多くなり、タンニンという名称ではなく、更に広い範囲を意味するポリフェノール化合物(フェノール性ヒドロキシ基を分子内に持つ植物成分の総称)の一部として呼ばれることが増えています。ただしワインを始め食品化学などの分野では、便宜上現在もタンニンという名称が用いられています。

植物性のポリフェノールは、果物、野菜、種子、ワインやお茶などの飲料などに豊富に含まれているため身近な存在でしょう。ポリフェノールは人体に影響を与えるフリーラジカル(活性酸素)を抑制する効果(抗酸化作用)があることから人体の健康に有益であると報告されており、老化によって生じる変性や病気のリスクを減らす効果があると言われています。

赤ワインの味わいのバランスに欠かせないタンニンですが、肉類、チーズなどに含まれる脂質とワインとの相性の良さは皆さんも感じられることでしょう。これはタンニンと脂質による"カマンベール効果"と呼ばれる相互作用によってもたらせられますが、実は唾液中のたんぱく質も大きく貢献をしているのです。これは次回ご紹介します。

タンニンの分類

ポリフェノールの中でタンニンとしての性質をもつ化合物は以下の3種類に大別されています。過去のブログでも紹介していますので是非ご覧ください。

a)縮合型タンニン:プロアントシアニジン、カテキンまたはエピカテキンのポリマー(赤ワイン、お茶に豊富に含まれる)

b)加水分解性タンニン:エラジタンニン、ガロタンニン(樽の原料など樹木からもたらされる)

c)フロロタンニン:フロログルシノール(藻類に含まれる)

では次回は唾液とタンニンの関係についてみていきます。

Reference: Wine tannins, saliva proteins and membrane lipids
Erick J.Dufourc (University of Bordeaux, Bordeaux Polytechnic Institute)
June 2021 Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Biomembranes 1863(48):183670

Reference: Whikipedia タンニン 、ポリフェノール

「フレンチ・パラドックス」 乳脂肪量と心臓死比率

ヨーロッパでは北国が高く南国が低い。塩分摂取量など食事の関係はないでしょうか?日本が圧倒的に低い点にも驚かされます・・・。

Reference: 公益財団日本心臓財団 耳寄りな心臓の話(第28話)『心臓病のフレンチ・パラドックス』

タンニン関連過去ブログ

タンニンの正しい理解 その① (タンニンとは?渋みとは?)

タンニンの正しい理解 その②(アントシアニン、プロアントシアニジン、エラジタンニン)

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タンニンの正しい理解その④(品種ごとのタンニン)

サグランティーノの強いタンニン、プロアントシアニジンとは?

ワイン・ブログ 情熱とサイエンスのあいだ

ワインに関する科学的研究を、私の超個人的なフィルターを通して、ソムリエのみならずワインラヴァーの皆様にお伝えするそんなブログです。ワインに関しての最新研究やワインサイエンスを通してマニアックなワインの世界を突き詰めたい方々にお役立ていただけると嬉しいです。

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