タンニンの正しい理解その④(品種ごとのタンニン)

「タンニンの正しい理解」最終回です。白ワインのタンニン、そしてブドウ品種ごとのタンニンについて紹介します。

白ワインのタンニン

白ワインにも微量ですが、タンニンは存在します。白ブドウ果の種にもタンニンが含まれており、破砕した後、圧搾せずに発酵させるワイン(ジョージアのアンバーワインなど)にはタンニンがある程度含まれています。また、グリ系の白、例えばピノ・グリや甲州などのように、完熟するとピンク色を帯びる品種果皮に黒ブドウの要素をわずかに含むため、それらの品種のワインにも渋みが感じられることがあります。

種子と果皮のタンニンの抽出をコントロール

第2回で紹介したアントシアニンは果皮だけに含まれるのに対し、タンニンは果皮と種子に含まれます。果皮のタンニンは心地良い渋味を与えるが種子のタンニンは荒々しいという経験的な知見はモンペリエの研究グループにより裏付けられています。赤ワインの醸し発酵中に果皮のタンニン、アントシアニンフラボノールは多く抽出されますが、種子のタンニンやカテキン類のモノマーは徐々に抽出されることが報告されています。つまり硬い種子に含まれる成分は、果皮に含まれるものに比べて抽出に時間がかかりますが、アルコール分が増えると抽出が増えます。更にコールド・マセレーション(低温浸漬)を行うと果皮から抽出されるフラボノイドの割合が高くなること、醸し発酵中の温度経過を変えることで抽出されるタンニンの量だけでなく質をコントロールできることが明らかになりました。

ワイン熟成によるタンニンの変化

ワインの熟成中にタンニン成分が高分子化して分子が大きくなるとタンパク質との反応性の低下(ムチンとの収斂の低下)、重合による沈殿が起き、渋味が丸くなるのだろうという説があります。しかしまたもフランス・モンペリエの研究グループの発表として、タンニンはワインのような弱酸性のエタノール中では分解され、カテキン類のモノマー(単体)やアントシアニンと結合することにより低分子化することが明らかになりました。つまり熟成によっての変化としては、タンニンの分解によって渋味は減少することが考えられています。一方、低分子化したタンニンは苦味が強いことが報告されていて、熟成のピークを過ぎた赤ワインに苦味を感じる原因のひとつとして考えられます。つまり渋みは減少、苦味は上昇する可能性があるということです。皆さんの印象はいかがでしょうか?

ポリフェノール含有量の高い品種

ポリフェノール類の中で、味わいに大きく関与するタンニンですが、前述のように、ブドウの果皮と種子に存在するため、ブドウ品種、産地、ブドウの収穫年、収穫時期、ワイン醸造方法などによって含量、組成がかなり大きく変わってきます。ではポリフェノール含量が高い品種はなんでしょうか?

以前よりポリフェノール含量が最も高い品種は、フランスのマディランACの主要品種タナ(Tannat)種であると言われています。タナ種はタンニン含有量が多いことから、この名が付与されたという歴史があります。しかしグラフ1の通り、2002年にイタリア ウンブリア州で栽培されるサグランティーノ種がタナを越えるポリフェノール含有量があると報告されています(Mattivi et al., 2002b)。また後の2014年にイギリスのウィリアムハーヴェイ研究所によって報告された赤ワイン品種のポリフェノール含有量、並びにフラボノールの一種であり強い抗酸化作用が確認されているプロシアニジンの含有量においても、サグランティーノが最も高く、タナ、アリアニコもこれに次ぐ量を示し、比較したカベルネソーヴィニヨン、グルナッシュ、マルベック、メルロー、ピノノワール、シラー/シラーズに有意差を示し高値でした(グラフ2)。

ポリフェノール含有量については、1970年頃から、フルボディーな赤ワインのポリフェノール含有量はポリフェノール以外のフェノールも含んだ総フェノールとして1500~1800mg/Lといわれていましたが、最近では、新世界を中心に「フルボデイー」志向が高まり、その大部分の「フルボディーな赤ワイン」は総フェノールとして1700~3000mg/Lのポリフェノールを含むに至っています。

まとめ

4回に渡ってタンニンを紹介してきましたが、タンニンはブドウのみならず、果物の味わいに欠かすことのできない存在です。ワインでは味わいの骨格として大きな役割を持ちます。一方、タンニンには様々な種類があり、果皮、種子、樽から異なる種類のタンニンがワイン中に溶け込んでいます。更には品種によってタンニンを含むポリフェノール含有量が異なり、産地、栽培方法によっても変わってきます。産地ごとの様々な条件で生み出されるタンニンのバランスを考え、ワイン生産者は栽培、醸造の中でコントロールしているのです。

ワインを愛する我々は口腔内の収斂、渋味、苦味を通してタンニンの存在を感じ、ブドウ、テロワール、生産者に想いを馳せましょう。

(参考)

新ワイン学 :戸塚 昭(編集幹事) (監修), 東條 一元(編集幹事) (監修) 出版社: ガイアブックス

きた産業 Tips for B.F.D No.21;後藤奈美

グラフ1:イタリアのEdmund Mach Foundationによって行われた研究(Mattivi et al., 2002b)。サグランティーノは1リットルのワイン中に4gものポリフェノールを含有していることになる。

This graph referenced by Wine Folly "Which Wines Are The Best For Your Health? And Why?"

グラフ2:イギリスのウィリアムハーヴェイ研究所によって報告された赤ワイン品種のポリフェノール含有量、プロシアニジン含有量(OPC)の比較。圧倒的にサグランティーノが高い数値を示した。

818種類の異なるブドウ品種の赤ワインに対する全ポリフェノールおよびOPCの濃度(mg / L)。

Aglianico (n=12), Bordeaux (n=24), Cabernet Franc (n=12), Cabernet Sauvignon (n=111), Carignan (n=5), Carmenère (n=7), Grenache (n=28), Malbec (n=45), Merlot (n=10), Mondeuse Noire (n=7), Montepulciano (n=5), Nebbiolo (n=14), Negrette (n=5), Nero d'Avola (n=6), Pinot Noir (n=14), Sagrantino (n=18), Sangiovese (n=32), Syrah/Shiraz (n=33), Tannat (n=205) and Tempranillo (n=25), Blends/miscellaneous (n=200; wines with no grape variety ≥70% of the blend, or miscellaneous grape varieties with <5 wines analysed from that variety)

Reference:Regulation of vascular endothelial function by red wine procyanidins: implications for cardiovascular health

Khan N.Q., Patel B., Kang S.S., Dhariwal S.K., Husain F., Wood E.G., Pothecary M.R., Corder R.

William Harvey Research Institute, Barts and the London School of Medicine and Dentistry, Queen Mary University of London, Charterhouse Square, London EC1M 6BQ, UK

Tetrahedron Volume 71, Issue 20, 20 May 2015, Pages 3059-3065

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2コメント

  • 1000 / 1000

  • akitosuz

    2021.09.28 15:47

    @Pe Jumご質問頂きありがとうございます。 ご質問について私の見解をお伝えすると、前提として分子量の大小と渋み、苦味の相関性はないと思います。渋みをもたらすタンニン(プロアントシアニジンなど)がモノマーに分解されることでアントシアニンなどと化学反応が起き異なる化合物に変化、結果的に渋みをもたらすタンニンが減少するという変化が起きているのかなと思いました。但しこの点についてきた産業の資料からの転載でしたので、私の見解はご質問に対する正しい回答になっていないかもしれません。ご了承ください。 ちなみに渋柿の例は今回のケースとは少し異なると思います。エタノールはタンニンを可溶化しやすい状態にさせることが分かっており、渋柿をアルコールに漬け込むことによって口腔内で収斂させにくい状態になっているのだと思います。ご参考になさってください。よろしくお願いいたします。
  • Pe Jum

    2021.09.27 09:24

    コメント失礼致します。 どれもためになる記事ばかりでいつも勉強させて頂いています。 一つタンニンについて質問があります。 記事内で、「これまではタンニンが熟成によって高分子化されていたと考えられていたものが、実は低分子化されていた」という内容を拝見いたしました。ここに関して疑問があります。 渋柿を例に出すと、アルコールに漬けて置くことでタンニンがアセトアルデヒドと反応し、結果、タンニンが高分子化することで舌に溶けにくくなり、渋みを感じにくくなるという現象があります。私はワインにおけるタンニンもこれと同じ現象だと思っていたのですが、今回のご説明とは少し相反するものがあるかと思いました。 お忙しいところ申し訳ありませんが、その旨の解説を頂ければ幸いです。