赤ワインの長期熟成について、2020年、南アフリカのステレンボッシュ大学の研究チームからの報告です。
赤ワイン製造では、ブドウの固形部分がジュース/マストと接触したままで発酵し、ワインに果皮、種からのフェノール化合物の拡散を促すため浸漬する。フェノール化合物は、赤ワインに特徴的な色と味わいを提供し、赤ワインの官能特性を強化するために重要である。その中でも、アントシアニンは赤ワインの色の構成、色の変化に強く関与している。タンニン、特にプロアントシアニジンは味わいで感じられる収斂性をもたらす。タンニンの含有量は、ワインの渋みをもたらし、苦味などワインの味に強く影響する。
発酵後は熟成され、最終的なワインの品質を向上させる。木樽で熟成した後、ボトルで熟成されることが多く、樽内では酸素によって酸化され木材成分が拡散していく。木樽は加水分解型タンニン(エラジタンニン)などのフェノール類によって味わいと香りに影響する。また瓶熟成中は瓶詰め時の溶存酸素、コルクなどを通して浸透する少量の酸素が存在するのみであるため、ワインはより還元的な状態となる。瓶詰後はワイン自体の組成は変化しないため、ボトル内で起こる変化は瓶内で生み出されていると考えられる。官能特性の変化は熟成中に起こり、より複雑なフレーバーをもつアロマ化合物が生成され、味わいをも変化する。
熟成する能力とは、ワインが熟成プロセスに耐える能力と言い換えることが出来る。長期間後に最適な官能特性または最適な品質に達するワインは、熟成能力が高いと考えることができ、最適な品質に到達するまでに30年必要なワインは、5年必要なワインよりも熟成能力が高いと考えることが出来る。その場合、フェノール化合物は赤ワインの熟成能力を評価する指標と考えられ、最適なフェノール品質に到達するまでに時間を要するワインは、熟成する能力が高いワインと考えられる(濃度の仮説)。また、最適なフェノール品質をより長く維持できるワインは、熟成能力が高いワインと考えられる(安定性の仮説)。
本研究では、2年間の熟成(樽で12か月、ボトルで12か月)が行われたワインの熟成能力を評価している。対象となったワインは、カベルネソーヴィニヨン(23)、シラーズ(19)、ピノタージュ(13)、メルロー(11)、ルビーカベルネ(2)、カベルネフラン(4)、サンソー(1)、グルナッシュノワール(1)、マルベック(1)、ムールヴェードル(1)、プチヴェルド(4)、ピノノワール(2)の82の赤ワイン(2016ヴィンテージ)で検証された。マロラクティック発酵後、製造元で1年間の樽熟成、15℃で1年間の瓶熟成を経たワインを分析している。
結果として、フェノール含有量が多く、24か月間にわたって変化が少ないものが最も熟成能力が高いワインとして選出された。10種のワインの品種は、カベルネソーヴィニヨン(2)、メルロー(2)、ピノタージュ(3)、ルビーカベルネ(2)、ムールヴェードル(1)であった。これらのワインに共通する特徴を分析すると、SO2耐性色素量が多いこと、青色の波長(620%)、黄色の波長(420%)が強いこと、タンニン量が多いこと、色調、色密度が高いことであった。
この研究では、赤ワインの熟成能力を早期に推定するためのアプローチについても提案されている。高分子ポリマー(polymeric pigments)、フラボノール、タンニン、アントシアニンが高いレベルで存在していることであった。興味深いことに、熟成能力の高いワインは、時間の経過に伴う色の変化が小さく、色素形成速度が遅かった。
(解説)長期熟成に適した赤ワインの条件をフェノール化合物から分析した研究です。アルコール発酵前後で、ブドウからフェノール化合物をワイン中に抽出することが重要であることが確認されました。その一方で、ワインの香りの変化やワインの味わいに影響する糖分や酸、アルコール、それ以外の要素については検討されていません。また人による官能評価が行われていないため、今回のフェノール化合物による結果のみで長期熟成が可能なワインの条件と考えることは難しいと考えています。今後の更なる研究が期待されます。
Reference: A chemometric approach to the evaluation of the ageing ability of red wines
Aleixandre-Tudo J.L., du Toit W.
Chemometrics and Intelligent Laboratory Systems 2020 203 Article Number 104067
私が購入した南アフリカのワイン中で最も高価なワイン、それはAnwilka 2007です。シラー50%、カベルネ・ソーヴィニヨン46%、プティヴェルド4%のブレンドでしたが、力強いボルドースタイルのワインのように感じました。19世紀のボルドーではシラーをブレンドに用いていており、シャトー・パルメもシラーをブレンドしたワインを復刻しています(シャトー パルメ ヒストリカル 19th センチュリー ブレンド)。シラーとカベルネ、試してみるべきブレンドかもしれませんね。
論文中で特定された長期熟成が可能な10のワインの成分表を分析してみました。82のワインの平均値を上回る項目を項目を黄色でマーキングしたところ、Volatile Acid(揮発酸) (g/L)、Glucose (グルコース)(g/L)、Ethanol (エタノール)(% vol)の濃度が高いワインが多い傾向でした。
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