タンニンの正しい理解 その③(タンニンの成熟、カテキン類、フラボノール)


タンニン編第3回です。タンニンはブドウ栽培中にどのように成熟するのでしょうか?

タンニンの成熟

グラフ1をご覧ください。ブドウの成熟と共にタンニン、フラボノール、アントシアニンは成熟します。アントシアニンはヴェレゾン後に生成され、タンニンとフラボノールは開花とヴェレゾンの間に生成されます。タンニンはヴェレゾンと収穫の間に成熟します。しかし、グラフ2のようにタンニンはブドウの成熟に従って増加しますが、ある時点から減少することがわかってきました。タンニン量を正確な方法で測定するとブドウと果皮と種子のタンニンは、ブドウの実が青くて硬い頃から蓄積して、ブドウが色付き始める時期かその後にピークとなり、成熟期後半には逆に減少することがわかっています。これらの変化はフェノール成分の性質や局在する場所によって異なります。果皮にはいくつかのアントシアンとタンニンが蓄積され、種にはまた異なった変化でタンニンが蓄積されていきます。フェノール化合物のワインへの抽出され易さは所在によって様々です。種に含まれるタンニンは成熟が進むにつれ徐々に抽出されにくくなり、種由来のタンニンは硬く、収敵性をもたらすため、このことはワインの品質にとっては好ましいことと言われています。一方で、果皮由来のアントシアンとタンニンは成熟が進むことで抽出されやすくなります。そしてやや過熟の時期にもっとも抽出されやすくなると言われています。フェノールの成熟は品種、年そして畑の区画によって様々であり、CASV法やグローリー法などを用いて成熟度合いを確認します。

タンニンが成熟期後半に減少する理由については、酸化・重合したり細胞壁に結合したりして、抽出されなくなっているのではないかと考えられています。ブドウの種を噛んだときの渋味で種が完熟したか判断すると多くのブドウ栽培家が言っています。これはタンニンの渋味が丸くなることによる質的変化を確認していると考えられていましたが、抽出されるタンニンの量が減少することの影響も大きいようです。

カテキン類

フラバン-3-オール、フラバノールと呼ばれ種子中に多く含まれタンニンの一種です。カテキン類は苦味を持つが渋味はありません。カテキン類はブドウの種子に最も多く含まれますが、果皮や茎にも含まれます。カテキンはブドウ果実を微生物から守る役割を果たしており、ブドウがベト病等の病気に罹った時に高濃度で作られます。この理由のため、寒冷湿潤気候で育つブドウは、温暖乾燥気候で育つブドウよりもカテキンの含有量が多くなります。アントシアニンやその他のタンニンとともに、これらの化合物もワインの色を長期間に渡り安定させる作用があります。カテキンの含有量は、ブドウの種類によって異なり、ピノ・ノワールは多く含みますが、メルローやシラーは非常に少ないことが報告されています。また、フラバン-3-オールの一種であるプロシアニジンは、高い抗酸化作用を持つとことが注目されており、血管内皮におけるアテローム性動脈硬化症への作用について研究が行われています。

フラボノール

フェノール化合物の中のフラボノイド配糖体のサブカテゴリーに分類され、アントシアニンと同様に色素となる成分です。太陽光と共に増加するため、フラボノールの測定によって日照量の指標となります。タンニンではありません。フラボノールの一種であるケンフェロール、ケルセチンは苦味の閾値は低くワイン中の苦味に影響しています。グラフ2に示した通りブドウの成熟に伴い増加します。


では次回第4回では白ワインのタンニン、ワイン熟成によるタンニンの変化などについて紹介したいと思います。

(参考資料)

ワインの品質とフェノール化合物:横塚弘毅(山梨大学発酵化学研究施設)

きた産業 Tips for B.F.D No.21;後藤奈美

Whikipedia カテキン類

グラフ1:Tannin synthesis and maturation

・アントシアニンはヴェレゾン後に生成される

・タンニンとフラボノールは開花とヴェレゾンの間に生成される

・タンニンはヴェレゾンと収穫の間に成熟する

「Flavonoids in grapes」Simon Robinson, Mandy Walker, Rachel Kilmister and Mark Downey(PLANT INDUSTRY)

グラフ2:ブドウ果皮のフラボノイド蓄積パターン

ブドウのアントシアニンは雨が多かったり成熟中の気温が高すぎると十分に蓄積しませんが、タンニンにはあまり影響しないようです。高温多湿、台風も来る日本の夏は、赤ワイン用ブドウの色付きへ影響したり病害、フェノールの成熟不足などに大きく影響しています。

Reference:きた産業 Tips for B.F.D No.21;後藤奈美


ワイン・ブログ 情熱とサイエンスのあいだ

ワインに関する科学的研究を、私の超個人的なフィルターを通して、ソムリエのみならずワインラヴァーの皆様にお伝えするそんなブログです。ワインに関しての最新研究やワインサイエンスを通してマニアックなワインの世界を突き詰めたい方々にお役立ていただけると嬉しいです。

0コメント

  • 1000 / 1000