ピノ・ノワールの全房発酵と乾燥茎との発酵の比較①

全房発酵とは?

ブドウの房の中心には果梗と呼ばれる部分があります。品種によっては、果梗に青い匂いや渋みの強いタンニンが含まれているため、通常は除去(除梗)します。しかし、一部ピノ・ノワールなどブドウ果にタンニン分が少ないため、梗を一部残して一緒に発酵させる方法があることが知られています。これを全房発酵と呼びます。

今回ASEV(アメリカ・ブドウ・ワイン学会)の2021年最優秀論文賞に輝いた本研究では、除梗済みでの通常発酵、全房発酵、そして第三の方法として乾燥茎を添加して発酵を行う方法を比較した研究が報告されましたので紹介します。

ピノ・ノワールのタンニン

ピノ・ノワールは他の赤いブドウ品種と比較して、フェノール化合物が比較的少なく、特にアントシアニンとタンニンの濃度が低くなっています。アントシアニンは色素を担うフェノール化合物ですが、タンニンは赤ワインの口当たりとテクスチャーに大きく関与しています。ワインのタンニンのレベルは、気候、産地、日当たり、スタイルなどの要因によって大きく異なりますが、過去に行われた研究では、カベルネ・ソーヴィニヨン(672 mg / L, n = 364)に比べてピノ・ノワールのタンニンレベル(348 mg / L, n = 261)は非常に低いことが報告されました。またカベルネ・ソーヴィニヨンのタンニンはピノ・ノワールよりも高分子であり、ピノ・ノワールの収斂性は唾液タンパク質に対して反応性が低い低分子量のタンニンに起因していると考えられています。

ピノ・ノワールのタンニンの抽出性を高めるためにいくつかの製造技術があります。一つは低温浸漬(cold soak)、そして全房発酵(Whole Cluster fermentation)があります。低温浸漬は低温(5〜15°C)に保持された果汁と果皮、および種子の接触によって、エタノール非存在下でアントシアニンの抽出を促進することが出来ます。

全房発酵(WC)はアルコール発酵時に房全体を浸軟(マセレーション)することで茎からのタンニンを抽出します。また果実内部で部分的な炭酸浸軟が行われるため、アロマの複雑さが増し、酢酸イソアミルやケイ皮酸エチルなどのフルーティーなエステル香が発生します。WCの欠点は収穫時期に茎が木化されていない場合、ワインに植物、草の香りが生じるリスクが高まります。また炭酸浸軟によって生じるアロマ量によっては品種の特徴香を覆いつくす能性があります。

乾燥茎(Dried Stem)とは?

今回の研究で用いられた乾燥茎(Dried Stem)添加技術は、カリフォルニアのセントラルコーストのワイナリーで開発されたものです。WCによって生じる炭酸浸軟の影響は少なく、茎由来のアロマとフェノール類を適度にワインに抽出できると考えられています。乾燥茎の製法は新鮮な茎を屋外に広げて日光下で5日間乾燥させ、1日1回定期的に裏返します。このことによって茎の重量は70%程度減少します。

研究方法

今回の研究では4群の比較を行いました。ピノ・ノワールを除梗して通常発酵を行ったコントロール群(C)、全房発酵を50%、100%行った群(50%/100%WS)、乾燥茎で発酵を行った群(DS)を比較しました。

使用したピノ・ノワール(クローン777)はカリフォルニア州サンルイスオビスポのエドナバレーAVAで栽培され、24 Brixに達したときにブドウを収穫しました。

ワイン醸造は、Chamisal Vineyards and Winery(カリフォルニア州エドナバレー)で行われました。コントロール群(C)は、破砕、除梗された果実を用いました。50%の割合で全房発酵を行った群(50%WC)、100%全房発酵を行った群(100%WC)、乾燥茎(DS)を加えた群は5日間風乾させた茎を用いており、果実より下に配置しました。アルコール発酵は低温下に行われ、発酵終了後は225 Lフレンチオーク樽でMLFが行われ、その後約3か月保管、瓶詰前に亜硫酸添加を行いました。

研究結果については次回のブログで紹介します。

Reference: Whole Cluster and Dried Stem Additions’ Effects on Chemical and Sensory Properties of Pinot noir Wines over Two Vintages
L. Federico Casassa et al, Am J Enol Vitic. January 2021 72: 21-35; published ahead of print August 20, 2020 ; DOI: 10.5344/ajev.2020.20037
SAMsARA WineCompanyでの全房発酵の様子(https://www.samsarawine.com/education/whole-cluster-fermentation-matt-brady/)

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ワインに関する科学的研究を、私の超個人的なフィルターを通して、ソムリエのみならずワインラヴァーの皆様にお伝えするそんなブログです。ワインに関しての最新研究やワインサイエンスを通してマニアックなワインの世界を突き詰めたい方々にお役立ていただけると嬉しいです。

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