ワインの香りを化合物から整理する⑭ラクトン類その②(γ-ノナラクトン、γ-デカラクトン、γ-ドデカラクトン)

前回はワインをオーク樽で醸すことによってワインに付与される香りオークラクトンを紹介しましたが、今回それ以外にブドウ本来持っている成分から生み出されるγ-ノナラクトン、あるいは酵母から付与されるγ-デカラクトン、γ-ドデカラクトンを紹介します。

γ(ガンマ)-ノナラクトン(γ-nonalactone)

Kahnらによって1969年に蒸留酒で初めて同定され、1974年にSchreierらによってワインでの存在が確認されました。ノナラクトンはブドウの果皮、種子に含まれるリノール酸から生成されます。

2009年オーストラリア アデレードヒルズのフリンダーズ大学で行われた研究※1によると、γ-ノナラクトンは白ワイン、赤ワインに多く含まれ、特にヴィオニエ、カベルネ・ソーヴィニヨンで特に多いことが確認されました。

天然にはモモやアンズなどの果実、ジャスミン油などに含まれており、ココナッツのような香りをもちます。また希釈し濃度を低くすることによってフルーツ、フローラル、ムスクのような香りにも感じられます。ジャスミンなどのフローラル系やオリエンタル調の調合香料、ココナッツ・バター・キャラメル・バニラ系フレーバーなどの香料として幅広く用いられています。

γ-デカラクトン(γ-Decalactone)、γ-ドデカラクトン(γ-Dodecalactone)

γ-デカラクトンはモルトウイスキーの甘い香気成分をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、γ-デカラクトンとγ-ドデカラクトンであることがわかりました。γ-デカラクトンとγ-ドデカラクトンは、酵母の死骸を乳酸菌がヒドロキシ脂肪酸を生成、その後酸化によってラクトンが生成されます。

1976年にSchreierらによってワインでの存在も確認されました。先ほどのフリンダーズ大学で行われた研究※1によるとγ-デカラクトンは白ワインには含まれず、シラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルローにのみ存在していたことが明らかになりました。

γ-デカラクトンはモモの香りを特徴づける成分として重要で、天然には果実や発酵食品、和牛の肉にも存在します。モモ、スモモ、アンズ、アプリコット、イチゴの香料として用いられています。

※1 Reference: Quantification of several 4-alkyl substituted gamma-lactones in Australian wines. 
Cooke RC, Capone DL, van Leeuwen KA, Elsey GM, Sefton MA. 
School of Chemistry, Physics and Earth Sciences, Flinders University, Adelaide, Australia. 

J Agric Food Chem. 2009 Jan 28;57(2):348-52.

若々しさはラクトン香で得られる?

ところで、ワインとは少し離れますが、γ-デカラクトンとγ-ウンデカラクトン(ガンマ―、γ-Undecalactone)は女性の若い頃のニオイであることがロート製薬の研究で明らかになりました。10~20代女性に特有の「SWEET臭」の原因成分を同定したところ、その原因成分が「ラクトンC10(γ-デカラクトン)/ラクトンC11(γ-ウンデカラクトン)」であることが分かりました。

ロート製薬のデオコというボディソープにこの研究が生かされており、ラクトンの香りを見に纏うと「女性らしさ」「若々しさ」「魅力度」がUPするという研究結果が示されました。ワインのポリフェノールとラクトンの香りで皆さんの若々しさがUPするかもしれませんね(笑)

<試験方法>
「SWEET臭」の官能スコアの高いものと低いものをヘッドスペースガスクロマトグラフィー質量分析計(HS-GC/MS)で分析し、その原因成分を調べた。

10~50代の女性50名が約24時間着用した布を、専門パネラーにより6段階臭気強度表示法にて官能評価を実施した結果、10、20代と比較して30代以降で「SWEET臭」と呼ばれる香りが減少することが分かりました(上図)。

<試験方法>
回収したTシャツから取り外したものをHS-GC/MSでラクトンC10とラクトンC11を定量した。

10~50代の各世代と体臭中の「ラクトンC10/ラクトンC11」濃度の関係性を調べた結果、30代以降で大きくその濃度が減少していることが明らかとなりました(図4)。これより、「ラクトンC10/ラクトンC11」は10~20代女性特有の体臭成分であることが分かりました(上図)。

<試験方法>
「無香料」及び、6段階臭気強度表示法の臭気強度2に揃えた「2-ノネナール」「石鹸香料」「『ラクトンC10/ラクトンC11』含有香料」を用意し、
それらの内1種類の香りを嗅ぎながら女性(実年齢平均40歳)の写真を見て、「女性らしさ」「若々しさ」「魅力度」に対するアンケート調査を実施した(n=52)。無香料を100%とした場合、印象がどう変化するかを割合(%)で示した。

臭い強度を一定にした各種の香りを嗅ぎながら、「女性らしさ」「若々しさ」「魅力度」に対してアンケート調査を行ったところ、「ラクトンC10/ラクトンC11」を含む香料はそれらを全て上げる結果となりました(上図)。

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プレスリリース:女性の「若い頃のニオイ」を解明!「若い頃の甘いニオイ」の正体は「ラクトンC10/ラクトンC11」

https://www.rohto.co.jp/news/release/2018/0214_01/

ワインの香りを化合物から整理する⑬ラクトン類その①(オークラクトン)

ワイン・ブログ 情熱とサイエンスのあいだ

ワインに関する科学的研究を、私の超個人的なフィルターを通して、ソムリエのみならずワインラヴァーの皆様にお伝えするそんなブログです。ワインに関しての最新研究やワインサイエンスを通してマニアックなワインの世界を突き詰めたい方々にお役立ていただけると嬉しいです。

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