ワインの香りを化合物から整理する⑰ 丁子の香り(オイゲノール)

樽から抽出される成分はワインの味わいに影響するエラジタンニンなどに加えて揮発性の香り成分があります。今回はそのひとつオイゲノール(eugenol)を紹介します。

オイゲノールはワインでは樽に由来する香り成分で、クローブ、ピート香、スパイス香といった特徴で表現されていますが、皆さんには歯医者での虫歯治療の匂いといった方が分かりやすいかもしれません。これは虫歯への詰め物で使用されるユージノール(ドイツ語:ホフマン社)という鎮痛剤がクローブ(丁子 ちょうじ)から抽出されるオイルであり、オイゲノールが主成分です。オイゲノールには様々な薬理作用があり、抗酸化作用、鎮静作用、鎮痙作用、局所麻酔作用、抗炎症作用が報告されています。

オイゲノールはクローブ以外にも多種多様な植物に含まれており、シナモン、バジル、ナツメグ、クローブ、ローリエ、ピメント、バニラ、レモンバーム、バナナに含まれています 。またオイゲノールは香水原料としても重宝されており、複雑さを与える成分として香水のアクセントに用いられています。

ところで樽から抽出される成分にはどのようなものがあるでしょうか?オイゲノール以外にもスモーキー香を付与するフルフラールやグアイアコール, ココナッツ用の甘い香りを付与するオークラクトン,バニラ香を付与するバニリン、薫製香のするフランアルデヒドなどがあります。過去のブログで紹介していますので是非ご覧ください。

さてこれらの樽由来の揮発性香気成分が樽材からワインに移行するプロセスはどのようなものでしょうか?これはワインを樽で熟成させている間に樽材と樽材の接合面や櫛材の組織を通して付与されます。さらに貯酒中の欠減、滓引き、補填等の際にワインに酸素が溶解しワインの酸化熟成を進行させ特有の熟成香を形成していきます。

また樽を成形する際には加熱処理をします。これをトースティングと呼び、加熱の長さによってライトトースト、ミディアムトースト、ヘビートーストと分類しています。このトースティングによってオイゲノールをはじめとする揮発性成分が生成されるのです。また樽中での滓との接触によりオイゲノールの抽出量が増すという報告もあります。つまりオイゲノールは樽熟成されるワイン全般に感じられる香りといえます。

さて日本を代表する白ブドウの甲州とオイゲノールの関係を示す興味深い報告があります。甲州はシャルドネと比べてオイゲノール、バニリン、グアイアコールの含有量が多いというものです。これらの化合物は先に述べた通り樽から付与される香り成分ですが、樽熟成の工程を経ずとも甲州からこれらの香りが現れる可能性があるということです。

実際に甲州のテイスティングで丁子という香り表現をコメントすることがありますが、オイゲノールの香りがそう感じさせているのかもしれませんね。

クローブの花。クローブ(Syzygium aromaticum)は東南アジア原産のフトモモ科(Myrtaceae)の植物です。(画像引用元:https://hoffmann-dental.com/inhaltsstoffe/eugenol/?lang=en)

Reference

新ワイン学  (ガイアブックス)
ソムタニブログ Clove クローヴ 丁子
The potential aroma and flavor compounds in Vitis sp. cv. Koshu and V. vinifera L. cv. Chardonnay under different environmental conditions
Sharon Marie Bahena-Garrido, Tomoko Ohama, Yuka Suehiro, Yuko Hata, Atsuko Isogai, Kazuhiro Iwashita, Nami Goto-Yamamoto, Kazuya Koyama
doi: https://doi.org/10.1101/383000
Journal of the Science of Food and Agriculture 


ワイン・ブログ 情熱とサイエンスのあいだ

ワインに関する科学的研究を、私の超個人的なフィルターを通して、ソムリエのみならずワインラヴァーの皆様にお伝えするそんなブログです。ワインに関しての最新研究やワインサイエンスを通してマニアックなワインの世界を突き詰めたい方々にお役立ていただけると嬉しいです。

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