アルコールとうま味 その②

前回のブログの続きで研究結果についてです。

今回の研究の結果として、うま味をもたらすグルタミン酸(Glu)の含有量が高かった順としては、日本酒、ワイン、シャンパーニュ、ビールとなりました。

(日本酒)

日本酒サンプルの総FAA(Free amino acid: 遊離アミノ酸)含有量の範囲は、75〜448 mg / 100 mLでした。グルタミン酸(Glu)含有量の範囲は8〜54 mg / 100 mLでした。各アミノ酸の平均は苦味をもたらすアルギニン(Arg)(16%)、甘味をもたらすアラニン(Ala)(13%)、およびグルタミン酸(Glu)(9%)でした。

(ワイン)

ワインサンプルの総FAA含有量の範囲は、38〜220 mg / 100 mLでした。グルタミン酸(Glu)含有量は、1.1〜8.9 mg / 100mLの範囲でした。平均して甘味をもたらすプロリン(Pro)(61%)の割合が高いことが示され、次にアラニン(Ala)(5%)とアルギニン(Arg)(5%)でした。酵母と接触したワインはグルタミン酸(Glu)含有量と総FAAのいずれも高い傾向でした。ミュスカデ・シュール・リーにグルタミン酸(Glu)の含有量が少ない結果となりましたが、粕(酵母の堆積物)への再付着が考えられます。

(シャンパーニュ)

シャンパーニュでのグルタミン酸(Glu)とFAAの最大含有量は、古いヴィンテージワインで見られました。たグルタミン酸(Glu)含有量は、1.7〜7.3 mg / 100 mLの範囲でした。FAA含有量の範囲は、21〜106 mg / 100 mLでした。各FAAの平均はプロリン(Pro)(36%)が高く、次にアラニン(Ala)(13%)とアルギニン(Arg)(12%)でした。

(ビール)

ビールのグルタミン酸(Glu)含有量は、2.7〜8.4 mg / 100 mLの範囲であり、総FAA含有量の範囲は47〜150 mg / 100mLでした。各FAAの平均は、プロリン(Pro)(35%)、アラニン(Ala)(11%)と苦味をもたらすバリン(Val)(8%)でした。

全てのサンプルで共通することとして、発酵時間によってFAAの含有量は高くなり、特に熟成したヴィンテージシャンパーニュでその傾向がみられました。

各飲料(左から日本酒、ワイン、シャンパーニュ、ビール)での遊離アミノ酸量の割合の比較。青色はうま味、オレンジ色は甘味、灰色は苦味をもたらすアミノ酸を示している

(飲料間での比較)

PCA相関分析では、グルタミン酸(Glu)の含有量が高い飲料では、FAAと正の相関があることが示されました。またアラニン(Ala)(p <0.05)、グリシン(Gly)(p <0.05)、プロリン(Pro)(p <0.01)においてもFAAと正の相関があることが示されました。

甘味をもたらすセリン(Ser)は日本酒、ワイン、シャンパーニュに多く含まれまれており(p <0.05)、同様に甘味をもたらすトレオニン(Thr)(p <0.05)は日本酒とワインに多く含まれました。

シャンパーニュはワインと比べてグルタミン酸(Glu)とアスパラギン酸(Asp)が多く含まれる傾向でした。ビールは他の飲料に比べ苦味をもたらすフェニルアラニン(Phe)、イソロイシン(Ile)、トリプトファン(Trp)、および甘味をもたらすプロリン(Pro)の割合が高値でした。

(うま味をもたらす成分)

うま味は グルタミン酸(Glu)30 mg / 100 mLが人の感じられる閾値と規定されていますが、グルタミン酸(Glu)の含有量が最も多い日本酒(純米生酒)はグルタミン酸(Glu)含有量が54 mg / mLで、味の閾値(29〜30 mg / 100 mL)をはるかに上回っていました。つまり単体で十分うま味が感じられます。

うま味は、グルタミン酸(Glu)とアスパラギン酸(Asp)だけでなく核酸を構成するヌクレオチドが含まれると更に強化されます。海産物に多く含まれ、鮪や帆立、牡蠣は、グルタミン酸(Glu)、ヌクレオチド共に含有量が高いため、共に食すことでうま味の相乗効果がもたらされます。牡蠣、鮪や帆立と日本酒、シャンパーニュ、ビールは新たなうま味を生み出すことが期待できます。

(私見)

アミノ酸は種類豊富で味わいに影響します。アルコール中のうま味はグルタミン酸、アスパラギン酸(Asp)からもたらされますが、苦味や甘味に寄与するアミノ酸も複数あります。また食材からもたらされるヌクレオチドがうま味にとって非常に重要で、ヌクレオチドは核酸の一番小さい単位であり、核酸、プリン体と呼ばれたりします。皆さんもご存知と思いますが、飲料に加えヌクレオチドが含まれる食材を組み合わせることでうま味が高まります。

ヌクレオチドの含有量が特に多い食材は魚卵やキノコ類がありますが、ヌクレオチドの取り過ぎは痛風など高尿酸血症の原因になりますので取り過ぎに注意しつつペアリングを楽しんでみたいですね。

うま味について更に学んでみたい方はここのサイトがおススメです!↓

特定非営利活動法人 うま味インフォメーションセンター 旨味の基本情報

https://www.umamiinfo.jp/what/whatisumami/


Reference: Umami potential of fermented beverages: Sake, wine, champagne, and beer
Authors : Vinther Schmidt C; Department of Food Science, Taste for Life & Design and Consumer Behaviour, University of Copenhagen, Rolighedsvej 26, DK-1958 Frederiksberg, Denmark.
January 2021Food Chemistry 360(1):128971 DOI:10.1016/j.foodchem.2020.128971

ワイン・ブログ 情熱とサイエンスのあいだ

ワインに関する科学的研究を、私の超個人的なフィルターを通して、ソムリエのみならずワインラヴァーの皆様にお伝えするそんなブログです。ワインに関しての最新研究やワインサイエンスを通してマニアックなワインの世界を突き詰めたい方々にお役立ていただけると嬉しいです。

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