ブラインド・テイスティングを科学的アプローチで考える その⑦「クンクンメソッドとは?」

第6回まで人間の思考パターン、考えることと感じることを分ける、嗅覚の重要性などをお伝えしてきました。私はこれらの特徴を活かしたブラインド・テイスティング法を開発し、Kun-Kun Blind Methodと名付けました。略してクンクンメソッドです。名前は格好悪いかも(笑)ですが、実際にワインスクールの授業で取り入れており、受講生の方からの評判は忖度なく上々です。

さて具体的なやり方を以下の図で示しました。

クンクンメソッドのプロセス(Step1)

外観/香りを感じるStep1と仮説を立てるStep2、味わいつつ検証するStep3を明確に分けています。Step1で大切なことは、何の品種なのかを一切考えずにワインに向き合い、自分がワインから何を感じているか記すことです。さて、皆さんはブラインドをするときに、いつから答えについて考え始めていますか?ワインに向き合った瞬間から何の品種か考え始めている方は少なくないのではないでしょうか。過去のブログ「わかっていたのに変えちゃった」ナゼ?で述べたように、感じることと考えることを分けることがとても重要です。例えば自分自身は分析機器なんだと思ってみて、ワインが自分自身に与えている影響を定量的に、数値を計測するように捉えることが大切であると私は考えています。

クンクンメソッドのプロセス(Step2)

外観/香りから感じた情報が集積されたら、その情報を基に仮説を立てるStep2がこのメソッドの肝になります。このことを自分に課すことで、より多くの情報が必要であると気付くことも狙いのひとつになります。例えばより精緻に外観を観察することにより、特徴的な色合いを示す品種があることに気付くでしょう。アルゼンチンのトロンテスやオーストラリアのセミヨンなどは輝きが強く粘性が高く、淡いエメラルドグリーンの外観をしています。こういった特徴を把握していくことにより確率の高い仮説の設定が可能になります。

また繰り返し述べてきた通り、嗅覚の可能性は無限大であり、鍛えれば鍛えるほどより多層的な香りを感じることができるはずです。この可能性を広げるために重要な方法を組み込んでいます。これはまず出題されたアイテムの外観、香りをまず一通り評価するということです。例えば4アイテムが出題されたとします。多くの方は1アイテムずつ外観、香り、味わいの評価をされていると思います。ソムリエコンクールなどでのワインの出題方法が大きく影響しているかもしれませんが、このやり方でワインを口に含むと自身の状態が変化し、1番目と4番目の評価が変わってしまう可能性があり、正答率の向上にはつながらないと思っています。その理由は過去のブログ「嗅覚の重要性」でも述べていますが、鼻には約400もの嗅覚受容体が存在し、また白ワインと赤ワインの放出する香りは共通する物質と各々しか存在しない物質があることがわかっています。つまり様々なタイプのワインの香りを嗅ぐことで、嗅覚受容体はより多く刺激され、1アイテム目ではわかりにくかった香りが採れるようになります。よく「ワインの香りが開いてきた」とコメントされることがありますが、ワインは数分で香りが変化する不安定な物性の状態ではありませんので、どちらかと言うとワインから刺激を受けた皆さん自身の感度が高まったと考えられます。

仮説を導くまではワインを口に含まない

さて、クンクンメソッドで最も注意してもらいたいことはStep1、2では決してワインを口に含まないことです。ワインを口に含んだ瞬間、微量の香りを計測することが難しくなり、味覚からの刺激と嗅覚からの刺激が分けにくくなります。またワインのアルコールによって思考が低下する可能性もあります。そこでまずStep3に入る前に必ずStep2の仮説を立てることとしています。

クンクンメソッドのプロセス(Step3)

クンクンメソッドでは、仮説が正しいか検証する目的でワインを飲みます。自分の仮説とした品種をイメージして飲むと検証による納得感が高まります。例えばリースリングであれば、鋭い酸と共に柔らかい甘味が実感できるはずですし、カベルネ・ソーヴィニヨンであれば高い酸と共に強く収斂させるタンニンが口を覆うでしょう。このように自分の中に確固たるイメージをもってワインを飲むと、そのイメージとの相違が浮かび上がってくるのです。

さて、もし間違えてしまったとき、皆さんはどうしていますか?私はこの時が自分の能力を飛躍させる大きなチャンスだと考えています。自分の感じたことによって間違えた結論に至ったとき、目の前のワインは自分に大きな特徴を感じさせている可能性があるからです。では間違えたとき何をすべきか?を次回のブログで紹介します。

前回:その⑥「レトロネーザルとブラインド・テイスティング」

次回:その⑧「間違えに学びがある」

ブラインド大会(B-1グランプリ):予選エントリー受付中!1月8日~17日随時開催!

ブラインド講座:2020年10月16日開講!「当てる!実戦型ブラインドテイスティング」

クンクンメソッドの心構えです。

ワイン・ブログ 情熱とサイエンスのあいだ

ワインに関する科学的研究を、私の超個人的なフィルターを通して、ソムリエのみならずワインラヴァーの皆様にお伝えするそんなブログです。ワインに関しての最新研究やワインサイエンスを通してマニアックなワインの世界を突き詰めたい方々にお役立ていただけると嬉しいです。

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