ブドウ畑の土壌はワイン生産におけるテロワールの概念を考える上で大変重要な要素ですが、ワインの品質への影響は非常に複雑であり、テロワールと品質の関連性は明らかではありません。2019年にフランスのモンペリエ大学から、テロワールと品質の関連性を示す研究が発表されました。論文を基に一緒に考えていきましょう。
ブドウ畑の土壌は様々で、その特徴と環境条件に応じて、ブドウなど植物に水と栄養分を提供しています。酸性度を表すpH、栄養素の含有量などの土壌特性は地質岩に由来し、ブドウの成長とワインの品質に大変重要です。高品質のワイン生産を続けていくためには、土壌によるブドウへの影響、品質を高めるための環境条件を深く理解することが、将来起こる地球規模の環境変化に適応していくために不可欠なのです。
この研究の目的は、ワインメーカーと科学者の知識を融合することにより、赤ワインの品質に影響を与える環境要因を特定することです。この研究は、フランスのサンテミリオン・グランクリュでありムエックス社の保有するChâteau Capet-Guillier(シャトー・カペ・ギリエ)の協力のもと行われました。同シャトーの有するブドウ畑はドルドーニュ川、アイル川、バルバンヌ川の3つの川の堆積土壌で構成されており、土壌は砂、シルト、粘土で構成されています。
【図1】シャトー・カペ・ギリエの地図。北側にF3(SFU3)の畑があり、南側にF2(SFU2)、F1(SFU1)がある。
まず最初にテロワールを細分化し、土壌マッピングを作成しました。これは詳細な地質分析、地下水位と主要な気象パラメータに基づいています。高精度の土壌マッピングにより、3つのSFU(soil functional units:地質機能分類)を導きました。SFU1は、平野西部の灰色沖積土壌、SFU2は丘陵地帯に覆われた平野の東部の灰色沖積土壌、SFU3は丘の中腹の斜面にある褐色森林土壌でした(図1)。SFU1は砂質が多いことが特徴です。SFU2はSFU1に比べ有意に粘土が多く、次いでシルトの割合が多いこと、SFU3はシルトの割合が高く、次いで粘土という割合でした。
ブドウはマイクロテロワールゾーニングに基づいて、区画ごとに別々の発酵タンクにより製造しました。ワインは醸造担当者による2012年-18年までに行った品質評価に基づいてワインの品質ランクを検討し、品質ランクがA(最高)からC(最悪)まで評価しました。評価項目は、(i)余韻の長さ、(ii)タイトさ・バランス(酸味とアルコール)、(iii)タンニンの強さ、(iv)色、(v)タンニンの成熟度と滑らかさ、(vi)芳香の複雑さです。各項目の評価は1〜5で最終的なワインの品質ランク(A〜C)を割り当てました。
【図2】左はワインの品質ランクごとの各項目の結果。右は各品質ランクを区画ごとに色分けをした。
結果は、A品質は丘の中腹の斜面に存在する畑(SFU-3)であり、B品質、C品質は平野の沖積土壌(各SFU-2、SFU-1)でした(図2)。A品質であった土壌のpHは弱アルカリ性(8-9)であり、炭酸カルシウム濃度が高いこと、CEC(陽イオン交換容量)※1、主要元素(Ca、Mg、K)の濃度が高く、ワインの品質ランクが下がると共に各濃度が低下しました。また、ブドウの生育に重要な栄養素である総窒素、総有機炭素はA品質で最も高く、ワインの品質の低下に従い減少しました。土壌中の保水性についてはA品質のSFU-3が最も低く、ブドウに水分ストレスを与える土壌であることが示されました。B品質とC品質のワインで有意な差がある土壌中の成分はありませんでした。
※1 土壌を人間の身体に例えると、CECは胃袋の大きさ、つまり養分を蓄えられる量と考える事ができます。(YANMER 深掘!土づくり考より)
このようにワインの品質に差をもたらした土壌の組成ですが、どのようにブドウの生育プロセスに影響を与えたのでしょうか?ブドウの根と水、土壌の変化の関係性について次回紹介します。
Reference: Identification of environmental factors controlling wine quality: A case study in Saint-Emilion Grand Cru appellation, France.
Science of The Total Environment Volume 694, 1 December 2019, 133718
Fayolle E, Follain S, Marchal P, Chéry P, Colin F
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