スパークリングワインの滓と熟成期間の関係とは?

スペインのタラゴナのルビーラ・イ・ビルジーリ大学から、スパークリングワインの滓と熟成期間の関係について2021年の研究報告です。

シャンパーニュを始めとする伝統的な瓶内二次発酵で製造されるスパークリングワインは世界に数多く存在する。瓶内二次発酵での最初の発酵では白ワインの醸造が行われ、二次発酵では発酵に必要な22g/Lのショ糖、酵母、ベントナイトやアルギン酸塩などの補助剤が含まれたliqueurde tirage(リキュール・デ・ティラージュ)を加えることにより発酵を進める。二次発酵は3-6週間行われ発酵後は酵母の自己消化(autolysis)によって生じる滓(リー)と長期間接触する。

酵母はスパークリングワインの品質に大きな影響を与える多くの化合物、タンパク質、マンノプロテイン、ペプチド、アミノ酸、多糖類、脂質およびヌクレオチドを放出しスパークリングワインの官能特性に影響を与える。これらは、泡立ちの質の改善、泡の安定性を高める役割、口当たりの良さを高める働きがある。さらにアミノ酸、ペプチド、ヌクレオチドは旨味に寄与すると考えられている。

自己消化は数年単位の熟成が必要であるため、伝統的な方法で作られたスパークリングワインでは法定熟成期間が設けられている。通常のCAVAでは、9ヶ月の熟成期間、高級レンジの「レゼルバ」と「グランレゼルバ」では最低熟成期間は15か月と30か月となっており、法定熟成期間を超える長い熟成時間でCAVAを生産するワイナリーもある。

さて、スパークリングワインはスティルワインに比べて酸化されにくい利点がある。この理由は二酸化炭素の内圧が高く王冠から酸素が入りにくいこと、またボトル内の酵母の滓が抗酸化作用を発揮し酸素を消費するためである。結果として、ワインの酸化を遅らせることから白ワインよりもはるかに長く熟成できると考えられている。

今回の研究の目的は、滓の酸素消費率(OCR)を非侵襲的蛍光測定法で調べることによってスパークリングワインを劣化させることなくどれくらいの期間熟成させることが可能か検討を行った。

ワインはJuve&Campsワイナリーの9つの連続したヴィンテージ(2008〜 2016年)を用いた。アルコール発酵は16〜18°Cで行われ、マロラクティック発酵は18〜20°Cで行った。ブドウ品種のブレンドは全ワイン共通でXarel.lo50%、Macabeo30%、Parellada20%であった。その後ワインは瓶詰めされ12〜15°Cで貯蔵された。調査した全てのヴィンテージで同一の手順で行なった。分析は最も若い2016年ヴィンテージがティラージュ(tirage;瓶詰め)されてから3か月後に全てのヴィンテージをルミアージュ(remuage;動瓶)し、集まった滓を遠心分離して分析を行った。

結果として滓の酸素消費率(OCRto)は1年目の滓で最も高く、2年目と3年目の滓で大幅に減少し、古い滓では経時的に減少した。これらの結果は、滓が酸素を消費する能力は熟成期間と共に減少していると考えることができる。

総酸素消費量を1年換算すると、2年目の滓は1年目または3年目の滓の2倍強の酸素を消費している(上図下段のグラフ)。4年目以降の滓は酸素消費量が大幅に減少していた。2年目の酸素消費能力の高さは酵母の自己消化の進行タイミングとの関連性が示唆された。

滓の酸素消費能力は瓶内に取り込まれる酸素よりも大きい限り、スパークリングワインは酸化から保護されると考えられる。しかし、滓の酸素消費能力が低下したとき、遊離亜硫酸など酸化を請け負う物質が存在しないと褐変を引き起こし、過酸化水素の生成が進行する。

今回の結果を基に酵母の滓によって酸化を防ぐことができる期間は3年7か月と推定された(上図グラフ)。このデータは、CAVAを製造するワインメーカーが設定する熟成期間と一致していることを意味している。

【私見】:スパークリングワインの二次発酵における滓の重要性が示されました。味わいを複雑にさせるだけでなく、酸化からワインを守る働きがあることは大変興味深いと思います。また、滓による抗酸化作用が発揮できる期間の目安が示され、今後スパークリングワインを購入する際には瓶内熟成期間を確認してみたいと思っています。


Reference: Oxygen consumption rate of lees during sparkling wine (Cava) aging; Influence of the aging time. Food Chemistry (IF7.514), Pere Pons-Mercadé et al,

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